★★★★ 2022年11月1日(火) なんばパークスシネマ1
・夫は何故失踪したのか。
・妻は何故30年も帰らぬ夫を待ち続けるのか。
・妻は何故新たな男からの求婚を拒み続けるのか。
その、3つの疑問を映画は解題しようとはしない。もちろん後の2つに関しては、夫のことが好きだったから、新たな男が嫌いだったからなんでしょうけど、この妻の意固地さはちょっと度を越してるように思える。
田中裕子の主人公を紐解く鍵として、もう1人の若い妻、小野真千子が登場し彼女の失踪した夫が見つかることで何かを提示しようとする。
・夫は連綿と続く日時がこの先ずっと続くと思ったとき魔が差したように家に帰らなかった。
・妻は3年間の宙ぶらりんに耐え切れなかった。
・だから、新しい男から求婚されたとき応諾した。
田中裕子の生き様への疑問に対する一般的な大方の人々ならこうするだろうという回答。だが、それを提示されて尚、主人公は更なる混迷の奈落へ突き進む。
人の生きとし生ける営為は全てが理屈で割り切れるわけではない。他人からは窺い知れないし、時には本人でさえよく解ってなかったりする。ドキュメンタリー出身の監督らしくそのへんに無理やり帳尻をつけようとはしないのが良い。
ひなびた風情の港町のロケーションが良く。そこで日々を過ごす人たちを、田中裕子をはじめ役者たちが埋没するように演じている。味わいがあります。
失踪した夫を待ち続けることが最早彼女にとって生きる寄す処となっていることを淡々と日常の描写を積み重ねることで描こうとする作劇を田中裕子が漁村の生活や風景に完全同化することで受け止めている。それは尾野の挿話が作為的に感じられるほど。(cinemascape)