★★★★★ 2019年7月29日(月) テアトル梅田1
煎じじ詰めれば、ストレートな受難譚であるし、前々作「淵に立つ」の浅野のような理解不能の怪奇人物が登場するわけでもない。
だが、全篇を覆う不穏な空気の濃密さは抜きんでていると思う。
正直、俺は途中まで時制がシャッフルされていることに気づかなかった。
であるから、筒井真理子は普通人を装ってるがじつは虚実の混濁したド変態女なのだと思い込んでいたのだが、映画はちゃんと見てれば、現在と過去が錯綜していることを明らかにしてるわけである。
だから、見方を誤ったということになるが、そのへん脳内で評価を補正してみたのだが、やっぱそれでもこれは傑作だと思うのだ。
堕ちていく或いは堕とされていく女を描いて、桐野夏生や奥田英朗の小説あたりの突き抜けたハードボイルドな佇まいを筒井に獲得させている。
きわめて文学的だし、これほどに感情を内に溜めて情念を醗酵させていく主人公を久々に見た気がする。
文体も素晴らしかった。
「淵に立つ」あたりでは、いまいち確信性にかける感じがあった、アングルやレンズ選択も迷いがないように見えた。
一貫して、こうすべきという撮り方でブレてないっす。
堕とされることを従容として受け入れ静かに報復の熾火を燃やし続ける。透明な達観で思惑違いにも動じないハードボイルドヒロインの造形。時制の錯綜が単線構造を混濁する作劇も幻惑的な一方、ショットの選択は唯一点を捉えている。到達した工芸品を思わせる。(cinemascape)