★★★★ 2019年6月17日(土) テアトル梅田2
恋は障壁があるほど燃え上がる。
なんちゃって、柄でもないこと言ってますが、実際、夫婦であっても、隙間風が吹き出したとき、なにか共通の障壁が出てきて、やむをえず一緒に乗り越えていかないとしゃあなくなる。
ちゃいますやろか。
って俺の場合、ほとんど金銭的な生活苦なんですが。
インドの階級差別ってのが、今どうなってるのかは知りません。
でも、スラム出のど貧民でも、一念発起してがんばればハイソなソサエティに入れてもらえるみたいなのとは違うみたい。
厳然と階級差ってのが存在し、それはどうにもならないようだ。
であるから、男と女がひとつ屋根の下で暮らしてるんだから、そうなるやろ。
ってのは、われわれから見た話であって、メイドの彼女には超え難い壁なんだってのが、この映画見てるとよくわかる。
前半、男は気のある素振りを決して見せないし、女もそんな気はさらさらない。
でも、たとえば渡米時代に小説を書いていたけど、インドに帰ってきてやめたみたいな話に対して、「こっちに来ても書いたらいいんじゃないですか」みたいな彼女の助言が彼にはしっくりくる。
そういった些細なエピソードの積み重ねが丁寧で見てる方もしっくりきます。
マンションのエレベーターから部屋にいたるシークェンスは、懐かしい日本映画のようで、久々にいいもの見せてもらった。山田洋次が見たらやられたと思うんじゃないだろうか。
ラストの屋上での電話のシーン。
戸惑いと喜びと不安とが錯綜する長い沈黙の後に彼女が発することば。
余韻を残す体言止めだ。
階級という障壁を乗り越えるに2人には饒舌や激情を表することは叶わない。中盤のEV内やラストの屋上の長い沈黙に秘められた想いを映画は大事に慈しむ。家を訪れた友人が瞬時に2人の関係を察知するシーンなど鮮やかで山田洋次のメンタリティに近い。(cinemascape)