男の痰壺

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火口のふたり

★★★★★ 2019年8月25日(日) MOVIXあまがさき2

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奇をてらった設定や人物が登場するわけでもない。

いや、最後にあるのだが、それが蛇足に思えるほどにストレートに何年振りかで再会した男と女の心の動きを精緻に追った話であって、その両者の反応や言動やリアクションは奇異なものは何ひとつ無い。

無いのだが、それを凝視するように磨き上げたコクのようなものがあって、一瞬たりとも目が離せないのだ。

荒井晴彦の脚本の力というのを思い知らされる。

 

脚本というものを読む習慣がないので、正直、出来上がった映画からは演出の力量しか見えてこないものだ。

であるから、この荒井というおっさんが偉そうに色んな映画にダメ出しするのをあんまり好感をもってはいないのだが、今回は正直参りましたと思った。

 

序盤、再会した2人は自制している。

そりゃ、女の結婚式のために帰郷した男からすれば当然であるし、そんなこと彼女が求めているなんて思わないし思っちゃいけないと考える。

女もそんなこと考えちゃいけないと自制するし、結局は何もないまま別れていたかもしれない。

この両者が自制する時間と空気が徐々に変容する間と演技のリアクションの濃密さったらありません。

 

それが、ひょんなことから一気にSEXへと突入する。

溜めに溜めた情動が暴発する。

演技とドラマが相乗した凄まじい映画的快楽がもたらされる。

SEXシーンってのは、最近の邦画で何かの自制が働いてるのかてんでリアリティが無くなってしまったのだが、これは久々に納得できる出来だった。

中盤で「お互いけつの穴まで舐めあってる仲やん」みたいな台詞があるが、それが奇異に感じない世界が成立している。

 

瀧内公美は「彼女の人生は間違いじゃない」を見ているが、あまりに印象が違うので驚愕した。この主人公を体現するに一切の鎧を脱ぎ捨てて臨んでいるように見えた。

 

不義に対し自制する2人の細やかな心理駆け引きと抑圧されたオーガズムへの衝動が堰を切って炸裂する納得のダイナミズム。過去の挿話の断片が現在を侵食するロマンティシズムも泣けるのだが情緒は抑制。衒いなく正確なSEX表現が粉飾の時代に屹立している。(cinemascape)