男の痰壺

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秋津温泉

★★★★★ 2019年11月3日(日) シネヌーヴォ

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長らく見たかった映画で、俺の直感は見るべしと発し続けていたが機会がなかなか無かったのだが、やっと見れた。

これは、傑作だと思う。

昨年、旧作の日本映画で今更のドギモを抜かれた小津の「浮草」に匹敵するポジションを今年の鑑賞歴の中で占めそう。

 

何故、「浮草」を持ち出したかというと、これは吉田喜重の映画、或いは岡田茉莉子の映画、乃至は藤原審爾の原作とか言う以前に撮影者、成島東一郎の映画だと思うからだ。そのへんが「浮草」の宮川一夫を連想させる。

成島の仕事としては中村登との2本。「古都」と「紀の川」が突出してると思うが、それを凌駕していて2ヶ所の鏡と硝子を使ったシークェンスなど、オーソドックスな基盤の的確の上にトリッキーの楼閣を築いたの感がある。

 

男と女の長年の編年記ともいうべき構成だが、まあ、しかし言わば女が現地妻的なポジションに甘んじているので、実は2人で過ごした時間はおそらくトータルで1か月に満たないであろうと思われる。それが切なくもあるし、章建て的な構成を醸して編年の移ろいを示現するのだ。

 

一種、幾何学的なまでに完璧に逆転する男女関係の移ろいが、基本的に情とかに興味が無さそうな吉田喜重の本質にもあっていたのだろう。

見るたびにクスンで憔悴していくような岡田の演技もたまらないまでに的確だ。

 

戦後の復興を背に鄙びた温泉旅館で黴ていく女。男は死の縁から女の精気に救われながら無為に生を消費するしか敵わない。そんな腐れ縁の編年記を時代を負った数日ごとの逢瀬で綴った構成から成島の膨よかな撮影がロマンティシズムを抽出して已まないのだ。(cinemascape)