男の痰壺

映画の感想中心です

ラストレター

★★★★★ 2020年1月21日(火) TOHOシネマズ梅田2

f:id:kenironkun:20200122074248j:plain
キャスティングを見たときに、守りに入ってるやんと思った。
松たか子福山雅治ってのは無難だし、ましてや神木とすずに至っては食傷の感がある。庵野は遊びだろうしミポリンとトヨエツの「Love Letter」組に至っては阿りさえ感じた。
 
だが、見始めて錯綜する人間関係に戸惑い、絵解きすることに追われてるうちに、そういうキャスティングへの危惧はどこかに行ってしまった。
そのうち手紙の交換が2層構造で始まると、岩井の術中にはまった感があった。
岩井俊二っていうと「花とアリス」(未見です)とかの少女を愛でるロリコン趣味のイメージが先行するのだが、やっぱ稀代のストーリーテラーなんだと改めて思った次第です。
 
これは、ビリング上では松たか子がトップなのだが、結局のところ福山が物語の主線であって、彼をとりまく生温い世界が急転して彼をどん底に突き落とす。その後半の決定的プロットにトヨエツ&ミポリンをもってくるっていう悪意の表象が2重の意味で「リップヴァンウィンクル」を経由した岩井の成熟を思わせるのだ。
その果てに少女愛の世界が出てきても、俺は斜にかまえることなく素直に愛でる気持ちを持てた。
 
喪失と悔恨の物語なのだが、新たな再生を謳うってのは常套だが、最後まで温存したすず宛の母の遺書が実に効いている。母が同時代の仲間たちに向けた答辞が娘へのエールとなる。ここで世代を超えた登場人物たちの2つの円環は同心円となる。
巧いとしか言いようがない。
 
女々しく引き摺ってきた想いはデモーニッシュな2人に奈落へ堕とされ白いワンピースの少女たちに救済される。何れが真実かは解らぬが拠所は男を再生させるだろう。一方で娘に向けた母の想いは2つの時代を重ねて綴じる。稀代のストーリーテラーだと思うのだ。(cinemascape)