男の痰壺

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三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実

★★★★ 2020年5月30日(土) 大阪ステーションシティシネマ10

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若松孝二が、三島由紀夫の最後の数年間を描いた「11・25自決の日」って映画でも、この東大での全共闘との公開討論は少しだけ出てくる。だが、井浦新扮する三島のヘナヘナアジテーションだけで学生側の主張は出てこなかった。

 

正直、討論の内容は高踏的な修辞応酬に終始し、ほとんど理解できないし、両者の論旨が噛み合ってるようにも見えない。寅さんの「さしずめインテリだな」の台詞や大島が自作「日本の夜と霧」の上映館で聞いた「健さんこいつら叩き斬ってくれ!」のヤジが俺の脳裏に去来しました。

 

そういった退屈な空論展開が、それでも何がしかの興味をもって見れるのは、三島のキャラの圧倒的才智と幼児的とも言える時局感のアンビバレントな混在が空間を歪曲させるからだ。

そこに、東大全共闘側のラスボス芥正彦の登場で歪曲の2乗が混沌のエクスタシーへ至る。

とにかく、この人、赤ちゃん抱っこしてくわえ煙草のあざといまでの自己演出の嫌らしさといい冷笑苦笑の物言いのゴーマンさといい完全無欠のヒールであって、三島がいい人に見えてくる。

 

この討論会を企画し三島との交渉をした全共闘の木村修へのインタビューで、後日三島から電話があって盾の会に勧誘されたとの逸話が語られる。そのとき横にいた木村の彼女に電話を代われと言われて数分話していたそうな。その後、結婚して何十年かのち、あのとき三島に言われたことを彼女は初めて口にした。

おおーっと思わず身を乗り出したが、その内容にギャフン。オチになってないやんけ。

でも、三島の笑っちゃうくらいのキザなダンディズムかわゆい。

そして、映画館の暗闇でフクヤマの霊が憑依した俺はつぶやいた。

オモシロイ、じーつにオモシロイ。

 

世界同時革命の中二妄想が引き起こす集団ヒステリーが凝固した最終形態芥正彦と反実存のファンタジスト三島の中空で空転する妄想討論。その後自壊しゆくテロルとクーデターの企てを産んだ時代の空気か何だったのかを体感する教材。ミシマがかわゆい。(cinemascape)

 

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