★★★★ 2020年9月12日(土) シネリーブル梅田4
行き場のない少年が、スケボー仲間と出会い経験を積んでいくという幼年期の自我の芽生えもんなのだが、この少年が本当にいい。
俺くらいの歳になると、世俗の色気から遠ざかり枯淡の境地に達しつつあるので、街中で小さい子どもを見かけると素直に可愛いと思えるようになってきた。孫願望である。
そういう親父から見て、この子どものひたむきさや感情表現の素直さは直撃してくる。
おそるおそるグループに近づき声もかけられずにいる彼が、初めて水を汲んできてくれと命じられたときの喜びの表情。ああ、なんて素直でいい子なんやろかと思っちゃいます。
子役としてのキャリアもあるようなので素人じゃないのだが、おそろしく自然だ。演出の力なのか、そのへんはわかりません。
一方で、少年を受け入れる4人もいい。彼らは俳優ではなくスケーターらしいのだが、リーダー格のレイを演じるナケル・スミスの透徹した眼差しと物腰。彼がメンバー全員の来歴を少年に語ってきかせる場面は篇中の白眉だ。
シングルマザーの母親がキャサリン・ウォーターストーン。「インヒアレント・ヴァイス」から「ファンタビ」への変容にも驚いたが、疲弊しつつもヤンキー気質を滲ませる今回も魅せるものがあった。
総じて、ジョナ・ヒルが統べただけに役者の映画と言っていいんじゃないかと。
90年代を再現する意匠や16ミリフィルムの質感など、こだわりもあったと思うけど、フィルムの中に息づく演者の鼓動の前では必要充分な背景でしかない。
少年が外の世界へ足を踏み入れるときの憧れや慄きや喜びや躊躇いといった感情の揺れを驚くほど精緻に捉え切る。演じるサニー坊が本当に良く、これを引き出したジョナ・ヒルは端倪すべからざる手腕。90年代の意匠や16ミリの質感は背景の必要条件。(cinemascape)