男の痰壺

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窮鼠はチーズの夢を見る

★★★ 2020年9月17日(木) 大阪ステーションシティシネマ12

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ジャニヲタと腐女子で満ち溢れた劇場におっさん1人という濃密空間の異分子になる覚悟ってのは考えただけで怖気付いて萎えそうになるんですが、見たいもんは見たいねんからしゃーないやんけと開き直って行きました。

 

行定は俺の中では高打率のヒッターというイメージだが言うほど見てません。芦田愛菜ちゃんの「円卓」以来です。その少し前の「パレード」ってのが好きで、あれは、何人かでシェアハウスしてる男女が戦慄の予感を覚えつつ互いに腹の探り合いをするような映画だったんですが、今回の作品も評とかをチラ見して同じ腹の探り合い系の映画だと直感した。

 

本作の前半は、その予想があたりサスペンサブルだ。ノンケの男がゲイの後輩からアタックされて転ぶのかの葛藤は隠れ切支丹が踏み絵を迫られる懊悩に近似する。加えて3人の女が主線のBL話に絡み心理戦が綾を為す。特に3人目の女さとうほなみが絡む三つ巴は秀逸で、意地と矜恃がスパークするレストランの対峙で佳境を迎える。

 

ただ、興味を持てたのはそこまでだった。後半は、主人公は転んでしまう。そうなると、サスペンスは霧消してしまい、映画は男と女の通常の恋愛破綻劇と変わり映えしないものへと凡化してしまった。終焉の予感を抱きながら海辺に車を止めて2人で夕陽を眺めるといった感傷ダダ漏れのロマンティシズムは形骸にしか見えなかった。

 

男同士のベッドシーンもシネコンでかかる映画としては踏み込んだ方なんだろうが、オルガスムスの一片も感じられなかった。数年前のフランス映画「アデル、ブルーは熱い色」で描かれた女同士の濃密なそれは男の俺でもイキそうな納得性があったのに比べて如何にも段取りめいている。まあ、男同士のそれでテント張るようなことがあれば、それはそれで怖いことなんですがね。

 

禁断領域に踏み込むか止まるかの振り子はさとうが止まる側に引っ張ったおかげで反動をつけ越境する。その冷えた視線の交錯が牽引する前半はサスペンサブルだが、落ちてしまってからは急速に凡化。男同士の愛が須く段取り芝居めいて感傷の形骸がシラける。(cinemascape)

 

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