ああ、とうとうそのときが目前に迫ってるんやなあ、意識を失い切り刻まれるがままの俎板の鯉となる俺。仮面の改造人間にされた本郷猛もこんな気持ちやったんやろか。改造されるんややわーって…アホか俺。
ああ、全身麻酔ちゃんと効かんかったらどないしよう。身体は動かせず声も出せず目も開かない、が耳だけは聞こえる。
「さーちゃちゃっとやっちまってはよあがろうやないけ、おっさんビビッとったけど安心しなはれ楽勝オペや、メス!…あれ、なんや?ややこいことなってるで、おっ、えっなんで?神経やってもうたがな、ヤバイやないかい、おっさん右手アウトやがな、しゃーないか、ってなんで動脈切れてんのや!止まらへんがな、輸血やー、心肺停止やとー?…あー、しゃーないなもう、やれることやったんやから、こーいうときもあるっしょ!」
なわけないやろ。
煩悩を振り払うべく、談話室へ行き、缶コーヒー飲みながら窓外の風景に目をやる。
遠くに大阪ドームが見える。つらい思い出が甦る。
40過ぎて1年間失業してたとき、仕方ないから短期仕事の派遣に登録していて、大阪ドームのナイターでビール売りの仕事に行かされて、オリックス・西部戦のガラガラの外野席をサイズの合わないピチピチユニフォーム着て売って歩くのだが、なんせあまりにガラガラで30分もすれば売り手と買い手が互いの顔も覚えちまう始末。で、売れない。
外野席を半分に割って、反対側を女子高生がやっていたが、ユニフォームがよく似合って可愛いのだ。で、売ってきやがる。
ぬるくなった売れないビールを交換にスタンド下の控え室に行く度に爺いがあり得ないくらいに怒鳴る。一方で女子高生は笑顔でお迎えです。
辛い3日間だったなあ。
って、なんでこんなときにそんなこと思い出さなあかんねん、落ち着け。
って言えるのもあと12時間だ。
時をもどそう。