男の痰壺

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COME&GO カム・アンド・ゴー

★★★★  2021年3月12日(金) シネリーブル梅田3

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大阪キタを舞台に9ヶ国の人たちが織りなす群像劇ってことで、まあ、これはリム・カーワイにしか撮れない題材だよなと思う。

もしかしたら、日本人のクリエイターでも取材を重ねてこういう企画は立てられるのかもしれないが、この多様な国籍のキャストを集めることができて、そのうえで現場を統御していくのはボーダーレスな視座を持つ彼じゃないと困難だと思われるから。制作を兼任してることからもトータルプロデュース力の高さが窺えます。

偉そうなこと言ってますが、日本人の役者は別として、リー・カンションしか知らないんですけどね。

 

そのリー・カンションが、ツァイ・ミンリャンの映画の彼まんまの風情で大阪のアダルトショップを彷徨するのだが、AV嬢の握手会ではズーズーしくも抱擁を希望ってのが笑える。

そんな台湾人の彼が中国人ツアーから逸れたおっさんと知り合い飲みに行く。中共が2027年までに台湾を解放すると宣言した今、極めてセンシティブなシーンだが、2人は意気投合して別れる。

 

マレーシアからビジネスで来阪した男は、ちょっとトニー・レオンを思わせる風情のド真面目野郎で、取引相手の日本人がクラブでの接待を申し出る。彼はそういうのはと固辞するが、しつこく言われて渋々応諾する。

四国から大阪に来た女は金が尽きてネカフェを泊まり歩いている。出会った女からホステス募集の話を聞いて面接に行く。

この2つのエピソードが新地のクラブで合流する。その帰結は世知辛い時代の儚い清流のようだ。HEPの観覧車が夢幻の揺り籠のように切ない。

 

この映画、他のエピソードも概ね何らかの救いが提示される。ミャンマーの語学留学生は学費が滞りコンビニのゲス店長のセクハラに耐えている。ベトナム技能実習生は家族の病気で一時帰国を工場の社長に申し出て拒否され逃亡する。

それでも、彼ら彼女らには、各々に一筋の光明が見えるかもしれない。それは、監督リム・カーワイがこうあってほしいと思っている世界の在り様なのだろう。そのへん深く共振するところです。

 

4人の女連れて韓国から稼ぎにきた男がいて、仲介エージェントの香港(?)の男がいる。彼らが中国人ツアー客から日本人AV嬢の斡旋を依頼され、どうせわかりゃせんよと4人の韓国娘を送り込む。で、当然酔った男たちに脱げーと強要される。結局、香港人プロモーターが乗り込んできて酔客たちはメタメタに殴られる。

このシーンでは女の子たちを実際に脱がせないので、男が激昂する意味が通じない。

続く淀川畔のシーンも含め良い挿話なのに画龍点睛を欠く。

 

刑事の千原兄と日本語学校講師の渡辺真紀子の夫婦の挿話。これにネパール人男性を絡めて話を転がす。デカ部屋が事業所ビルの事務所にしか見えないし、捜査の話もリアリティがない。記者会見の場で千原がディスコミュニケーションについて一席ぶつのも変。変なだけなら、黒沢清の描く警察だってリアリティがないのだけど、この警察絡みは正直サブい。

デカ部屋と記者会見は一般公開の際には削った方がいいような気がします。

 

夫婦関係の断裂のあと行く道を閉ざされる渡辺真紀子を筆頭に、日本人たちには希望は提示されない。それは内向きの思考に慣れ切った我々の未来なのか。

外から見える日本、乃至は日本人というものの巧まざる照射に思えるのです。