男の痰壺

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地獄のマヤカン(摩耶観光ホテル)

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今回、登録有形文化財に摩耶観光ホテルが答申されたことを知り、俺の頭に40年前の苦い思い出が去来するのであった。

今では老朽化がすすみ入館できないながら、「廃墟の女王」として好事家の耳目を集めてるらしいが、当時は我々のような貧乏学生がコンパなどに使っていたのである。その時点でホテルを台風禍で廃業して10数年経っていたみたい。

 

大学に入学して、俺は映研の部室を訪れたものの、本当は中・高とやっていたサッカーの同好会にでも入った方がいいんじゃないかと決めかねていた。煙草の煙で視界も覚束ない部室には明らかに胡散臭さが漂っていたからだ。

程なくして新歓コンパなるものがマヤカンで行われると聞き、シンカンコンパ?マヤカン?状態でその日を迎える。

阪急摩耶駅で降りて、先輩に連れられスーパーに赴き食材の買い出しをする。マヤカンには管理人がいるだけなので、自分たちで鍋用の食材を持ち込んで下拵えするのであった。

ケーブルカーで摩耶山中腹のマヤカンに着く。40年前でも既に廃墟の翳りが拭いがたく、俺たち新人は嫌な予感に苛まれるのであった。ケーブルカーは9時頃に運行が終了するので、もはや何があっても下山することは叶わない。退路を断たれたわけだ。

 

宴が始まり、簡単な自己紹介のあと鍋をつついているとそれが始まった。後に新入生の間で「魔の4回生まわり」と称される。

大体、入部して1ヶ月、4回生なるものが映研にいることさえ知らず、当然知らない人たちで、上座に並んだ様からは不穏なオーラが立ち登る。「1人ずつ挨拶してこい」とビールとグラスを持たされ行くのだが、初手から俺はミスってしまった。注がれたビールを調子こいで一気飲みしてしまったのだ。おーいけるやんけともう1杯で1人目で3杯も飲んでしまい、これはマズいと席を移り2人目、これでいってみよかと渡されたのが土鍋の蓋で、蒸気穴押さえて大ビン1本まるまる注がれてしまった。拷問に等しい飲めども減らないビールとの格闘。冷や汗が滴り落ち顔面は蒼黒く変色していく。

その後のことは記憶から飛び、次に記憶が戻るのは、皆の前に立ちビールの大ビン一気飲みで、これはやった人にはわかると思うが、ジョッキでの一気飲みの10倍辛い。イッキイッキの掛け声が遠のいていき、俺はマーライオンのように胃からせりあがったものを噴出していた。そして視界はゆっくり傾いていきブラックアウトする。

 

余談だが、後年就職して長崎に赴任した折に上司に随行して地元の自民党代議士のパーティーに行ったことがあって、何人かでこの大ビン一気飲みを壇上でさせられた。その頃の俺は精進の甲斐あって余裕だったが、それでも段違いに早く飲み干す奴が何人もいた。広く世間に流布したアトラクションだったのだ。今ではあり得ないんでしょうが。

 

翌朝、自分の吐いたゲロにまみれて放置されていた俺は目覚める。周りを見渡すと黄昏の野戦病院のようであった。マヤカンの殺伐とした威容が、そのような幻視を俺にもたらしたのかもしれない。

そして、その日を境に何人かの新人は映研を去ったのである。

 

廉価で泊まりがけでバカ騒ぎが出来る場所ってのが俺にとってのマヤカンのイメージなのであったが文化財ですか。歳とるわけやわ。