「あーあ、なんだかなー」
「どうしたんです」
「お前さあ、ルッキズムって聞いたことある?」
「さあ、なんですか」
「ルックにイズムつけてルッキズムよ」
「はあ」
「見た目で評価したらダメなんだとさ」
「けっこうなこっちゃないすか」
「だけどよ、それで俺とかお前みたいなお世辞にも男前とは言えない奴がさあ、モテるようになるかね」
「そりゃあ無理だ」
「だろ、だからそんなの欺瞞じゃんか」
「欺瞞ね」
「お前がよ、もしにだよ、あり得ない話でさ、あくまで仮定だけどよ」
「ずいぶん念入りな前置きですけど、はい」
「有村架純とデビ夫人の2人から結婚申し込まれたら…」
「ちょっと待ってくださいよ、それっておかしくないっすか」
「えっ」
「なんでデビ夫人なんすか」
「ええやん」
「ルッキズム関係ないじゃないっすか」
「ふっふっふっ、そういうことよ」
「何が?」
「見た目で判断しやがって、この野郎」
「見た目ってより年齢でしょ、それ」
「で、どっちよ」
「うーん」
「ふふ…迷ってるお前見てて安心したぜ、まだまだ日本も捨てたもんじゃねえってさ」
「そうなんすか」
「建前のモラリズムばかりが先走って同調圧力で本音が封殺されようとしてる」
「はい」
「言いたいことも言えない世の中が来た日にゃあ、お天道様に顔向けできないぜ」
「…」
「おい、ハチ公」
「あいさ」
「ひとっ走り行って、あの方にご報告だ」
「ガッテンだ」
「過剰な忖度が言論封殺を産み出す時代になっちまった。新たな戦いの始まりだぜ」
「キリないよね」