男の痰壺

映画の感想中心です

ノマドランド

★★★★★ 2021年3月30日(火) TOHOシネマズ梅田7

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冒頭で企業城下町の疲弊が語られ、その後アマゾンでの短期雇用がでてくるので、ああケン・ローチ的に分断・格差の問題にリアル側面から言及する映画なのかと思いましたが違ってました。

 

自分たちはホームレスではなくハウスレスだと言う通り、彼ら彼女らはシステムから弾き出されたのではなく、自らの意思で外に出た人たちなのである。

俺としてはそういう生き方に対して殊更に肯定も否定もする気もないわけで、でも俺が仮に余命が2、3年しかないと言われたとしてキャンピングカーで車上生活しながら、あっちこっち見て回る余生を選ぶかと言われたら、しないわなと思うんです。

アメリカでは、そういう人たちが少なからずいて、基本、個で漂泊しながら各所で寄り集まっては情報交換したり互いの悩みを聞き合ったりしているみたい。

死ぬまでに色んなものを見ておきたい。

現代アメリカを取り巻くシステムに疑義がある。

単に定住が性に合わない。

漂泊する理由は人それぞれです。

 

で、主人公の女性なんですが、彼女が漂泊者になった理由が映画がすすむにつれ判ってくる。

【以下ネタバレです】

結婚して見知らぬ町で生活を営んできた彼女は夫に先立たれた後も、身寄りのいないその町で生きてきた。だが、企業の撤退でもうそこには住めなくなった。

他所に住む姉夫婦は一緒に住めばと言ってくれるし、映画の途中で出会った男性も一緒に暮らしたいと言ってくれる。行き場がないわけではない。

 

殊更に彼女は死んだ亭主のことを話しはしない。

でも、映画を見てる者にはだんだんと彼女が漂泊者の生き方を選んだ理由がわかってくる。

彼女は今までの人生を断ち切ってリセットしたくない。だから、新しい土地に定住して新たな生活を始めることはできない。

キャンピングカーで漂泊しながら先立った夫の思い出とともに朽ちていきたいのだと。

 

映画は車上生活のあれやこれやの豊富なエピソードが連なり、それを絶妙のテンポで繋いでいく。

だが、その連鎖の奥底から垣間見えてくる彼女の思いに気づかされた時に深く胸打たれるのだ。

本当に大切な想いは口に出して言わない。そのことを監督のクロエ・ジャオは十二分に噛み締めて映画を構築していると思いました。

 

冷たい外気から隔絶されたバン=繭の中で追憶の温もりに包まれ彼女は朽ちてこうとしている。経済変動が強いた生き方の変容やエコ回帰に耳を傾けても立つ地平が違う。手を差し伸べてくれる人にも黙して背を向けるだろう。断ち切ることができぬものがあるから。(cinemascape)

 

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