★★★★ 2021年6月28日(月) 大阪ステーションシティシネマ12
【完全なネタバレです。見る予定なら読まないで下さい】
ホプキンスがアカデミー賞をとったこと以外何ひとつ予備知識なく見た。なんとなく頑固親父と子どもの心の交流みたいな内容を想像してたので驚いた。
これは、ど真ん中から認知症を射抜く映画ニューロティック風味だったからだ。
認知症を扱った映画は今までもあったと思うが、ここまで徹底的に患者の主観に徹したものは珍しい。
まあ、それは映画が終わったあとで、あー描かれた世界はぜーんぶホプキンス爺の主観やったんやと気づくのであって、映画は巧妙に客観の視座を装い続ける。
妄想にかられた些細な思い込みから始まって、世界が徐々にズレ始める。懐疑のほころびは増幅して自我の喪失に至る。
少なからぬ人が認知症と介護の問題に向き合っている時代。この症状の進行には思い当たるし、概ねこんな感じだと思う。
認知症になって回復した人がいないのだから、当人にとって世界がどう見えてたのかを経験として語れる人はいないのだ。死後の世界みたいなもんだ。
本作は、それを確かにこんなんなんやろのレベルで提示して見せている。しかも、映画古来のニューロティックな自己崩壊劇としてサスペンサブルに。棺桶に片脚突っ込んだ俺は人ごとではなかった。
今更ホプキンスかと食指も動かなかったが、やっぱホプキンスすごいっす。
それにも増して娘役オリビア・コールマンの「女王陛下のお気に入り」との振れ幅に感服。
お気に入りのイモージェン嬢に関しては「ビバリウム」とかぶるリアクションながらポイントゲットないいポジションで良でした。
おかしいと思う自分がおかしいと気付くことは永遠にないのだということを、愉しいこと悲しいこと怖いこと腹立つことの記憶の断片が混じり合い顕現する様で紐解く。ニューロティックな作劇を昇華させるコールマンの静かな哀しみとホプキンスの無垢。(cinemascape)