★★★ 2021年10月3日(日) シネヌーヴォ
✳︎今回の上映では「タルコフスキーに捧ぐ」の副題がついてましたがオリジナルでの表記としました。
ソクーロフは若手の頃、自作が上映禁止の憂き目にあった時、擁護してくれたタルコフスキーに感謝の思いがあったらしい。そんなんで、これは丸っぽタルコフスキーへのトリビュートです。
構成は、タルコフスキー亡命後の2作「ノスタルジア」と「サクリファイス」の撮影模様などを記した既存の記録フィルムを柱とし、ソクーロフが撮り足したタルコフスキー幼年期のイメージが随所で加味される。その幼い兄妹と母のイメージは必然的に「鏡」と同期する。
圧巻は、「ノスタルジア」の脚本家トニーノ・グエッラと「サクリファイス」の撮影者スヴェン・ニクヴィストといった欧州映画の2人の巨人の仕事を垣間見れるところか。
グエッラといえばアントニオーニ作品の大半や後期のアンゲロプロスの仕事の脚本家。ニクヴィストは言わずと知れたベルイマンの撮影パートナーだ。
グエッラが言う。「詩を作ったんだ、聞いてくれるか?アンドレイ」。
巨人たちの仕事は、そこから?というくらい豊穣な基盤の上に形成されているのであった。
ソクーロフの想いがどうであれ亡命後に早逝したタルコフスキーの面影は哀しい。トニーノ・グエッラやスヴェン・ニクヴィストといった欧州の巨人たちが彼に対し込めた想いの片鱗を垣間見るだけでも救われる。撮り足し部分は私家版『鏡』の趣。(cinemascape)