男の痰壺

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ウェンディ&ルーシー

★★★★★ 2021年10月24日(日) シネヌーヴォX

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ケリー・ライカートって知りませんでしたが、処女作が1994年ですからキャリアは20年以上なんですね。遅ればせながら知り得で良かった思います。

 

車で放浪する女性ってことで、今年の前半の話題をさらった「ノマドランド」を彷彿とさせるのだが、本作は2008年作、10年以上前に作られたものだ。

ただ、ロードムービー的な要素はない。通りかかった町での顛末を描いて彼女が去っていくとこで映画は終わる。

 

弱り目に祟り目、悪いことは重なる。

そういう映画で、もともとに家なし職なし金なし、車だけはなんとかあって、旅の道連れの犬もいる状態のウェンディであったが、何とか凌いで来た日々も一気に崩れていく。

映画は、それが何かの或いは誰かの所為とか言うつもりも毛頭ない。あるのは、局面に対して足掻く彼女への共感です。

そして、俺はケリー・ライカートのそういった善悪の平衡感覚に対して深く共振するものを感じるのであった。要は性に合うって事なんでしょう。

 

インディーズ的な制作基盤だろうことで、映像的な豊穣を全く期待してなかっただけに、色彩とか奥行きを感じさせる画面設計にも予想外に射られた。冒頭からのミシェル・ウィリアムスと犬が戯れながら歩く只ならぬ横移動だけで傑作と確信させる。

 

イカートの映画に惚れて自分から売り込んだというミシェル・ウィリアムスですが、今回彼女を見てて、この人イザベル・ユペールの後を追っかけるような存在になるんちゃうかと、そんな気がしました。

 

何故そうなったかへの言及は一切ない。どうにか凌いできた日々も何時かはインケツに転じ、それでも又凌いでいくしかない。そのことへの深い共感があるだけ。それでも彼女を取り巻く世界は落ち着きのある色彩と奥行きのある陰影に満ちて彼女は肯定されている。(cinemascape)

 

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