★★★ 2022年1月13日(木) シネリーブル梅田1
「マクベス」の映画化作品と言えば、ウェルズ、黒澤、ポランスキーで必要十分てあり、もうええやんとも思えるのだが、この物語が映像作家の心をそうまで駆り立てるのは何なんでしょうかね。そっちの方が興味がある。
コーエン版マクベスの特徴は直線的な造形の象徴主義的な舞台美術と思われ、俺はウェルズ版を未見なのだが近いんじゃなかろうか。違ってるかも知れませんが。
秀でてるのが魔女の造形で、手足をアクロバティックに折り曲げるそれは凶々しさ満載。CGなのか関節を外せる女性を呼んできたのかわからんが。
まあしかし、それ以上の何かがあるかと言えばどうやろか。何より主演の2人がミスキャストに思えます。言わばマクベスってのは魔女や嫁の諫言に乗って尺に合わない野心を持ってしまう小者です。デンゼルでは人格者めいてご立派すぎます。マクベス夫人のフランシス・マクドーマンドも意思力の強さは折り紙付きだが夫を焚きつける権力志向の毒婦の柄じゃない。妖艶さを持ったキャストが望ましいところです。
結局は名優が演じる古典という枠から一歩も出ていないように見える。もっとコーエンならではの解体・再構築を見せて欲しかった。
簡略化されたセットの鋭角美の中で繰り広げられる古典劇だがナウな訴求性があったかは疑問。何より浅薄な思慮で魔道に堕ちるにしてはデンゼルは人格者めき、奸計を巡らし夫を誑かす毒婦マクドーマンドに妖艶さの欠片もない。魔女の凶々しさのみ絶品。(cinemascape)