男の痰壺

映画の感想中心です

犬王

★★★★ 2022年6月2日(木) 梅田ブルク7シアター6

【ネタバレです】

 

産まれ落ちた瞬間に身体の48ヶ所のパーツを奪われた百鬼丸が、それを1つずつ取り戻す旅路を描いたのが手塚治虫どろろ」であったが、本作の犬王も異形のものとして産まれ、異形のパーツを1つずつ捨て去っていく。この逆「どろろ」とでも言うべき設定が既視感あるのはともかく、何だか普通の人間になっていくにつれ魅力が失われていくように感じるのはどうかと思った。まあ、それだけ初出の犬王の造形がインパクトがあったということなんでしょう。

 

幼くして失明し琵琶法師たちのギルドに拾われた友魚が幼い犬王と知り合い、トリックスターと化していく犬王に触発されて旧来の能楽曲から逸脱してバロックなロックを志向する。この時代を無視した楽曲の変容は映画の嘘として許容できる。犬王役のアヴちゃんの圧倒の歌唱も相俟って魅力的なのだが、画として現代のショウアップされたパフォーマンスめくのは如何にも行き過ぎであり、楽曲の虚構は正統な時代考証の中でこそ映える。演出のミスチョイスに思えた。

 

以上2点の引っかかりを感じだが、湯浅の造形は時に抽象化、時にリアリズムの間を自在に往還する闊達さで大層に魅力的。澱む間もない2時間であったと思います。

 

楽曲の虚構は地に足ついた時代のリアルを背景に際立つのにショウビズ風コンサートめくのは興醒め。異形の犬王が普通になるにつれ凡化していくキャラ造形も微妙。しかしアヴちゃんの圧倒的なパフォーマンスに聞き惚れる。シーン毎の造形アイデアも魅力的。(cinemascape)

 

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