★★★★★ 2022年9月13日(火) 大阪ステーションシティシネマ8
「もうなにも欲しがりませんから
そこに居てね
ほほえみ くれなくてもいい でも
生きていてね ともに」
深田晃司は矢野顕子の同名曲にインスパイアされた企画を何十年も温めていたそうで、それは上に挙げた1節が心を動かしたんではなかろうか。多分ですけど。
かつて、所帯を持って子どもも1人もうけて暮らしていたのに、夫は何故か放逐した。その後、別の男に見染められて再婚し、今は平穏に暮らしている。
とまあ、世の中には、ある程度転がっている話である。夫の親は1人息子をバツイチ子連れの女に取られておもしろくなく嫁にはきつい。でも、現夫は自分を愛してくれてるし、息子にも優しい、がまんがまんョ、ってな感じ。
しかし、ある出来事を契機に流れは一転する。
矢野の歌詞にある「そこに居てくれたらそれだけでいい、一緒に生きてくらたらそれだけでいい」が、主人公の押し込まれていた感情の奥底から迸るに至る佳境に向かって。
砂田アトムが、たまらなく良い。一見、無理筋の展開を全存在で観客に納得させる。助演男優賞は確定じゃないでしょうか。
深田にしては、真っ当でプレーンな展開が驚き、と思いながら見てましたが、その佳境から映画は更に二転三転して思わぬ収束を迎える。
喰えない男だとは思うが、この結末も確かに1つの LOVE LIFE 。ラスト俯瞰ロングの長回しはどこかアントニオーニみたいだ。
今年、木村文乃ちゃんは「ザ・ファブル」と、永山絢斗は「冬薔薇」と正反な役を熟して役者冥利に尽きるんじゃないでしょうか。2人も賞にからむといいですね。
「そこに居て一緒に生きてくれるだけでいい」という主人公の内面に押し込まれた感情が迸る佳境。深田にしては真っ当な展開と思う傍から映画はグラインドする。この結末も確かに1つの LOVE LIFE 。ラスト俯瞰ロングの長回しはアントニオーニみたい。(cinemascape)