男の痰壺

映画の感想中心です

さかなのこ

★★★★ 2022年10月18日(火) シネリーブル梅田4

さかなクンへの関心ってのが絶無で、のんへの興味も失せてる俺ですが、それでも見て良かったと思いました。やっぱ映画は見てみないとわからんもんです。

男であるさかなクンを女の子ののんが演じる。設定を変えるのでなく、あくまで男なんだということになっている。でも、どう見たってのんは女の子であるから、ふざけとんのかという話なんだが、これが成功してると思いました。

だって、さかなクンは非常に特殊なキャラであり浮世離れた世界に棲んでるようなもんだから、そのまま男が演じたって胡散臭いものにしか映らなかったであろう。この映画の採った胡散臭さを2乗する戦略によって初めてまともに物語と向き合えた気がする。

 

けっこう苦節味わってる人なんやなあと思いました。水族館、寿司屋とさかな関係の仕事につくも使いもんになんなくてクビになる。お情けでペットショップの店主に雇われて、世に出るまではそこで居候みたいな生活だったらしい。

陽キャラの裏の暗部とまではいわないが、唯一無二であることの孤独感とかを、微妙な匙加減で差し込んでくる沖田修一の演出が良い。

 

小学生時代の同級生の男の子と女の子、高校時代の不良総長や敵対校の不良といった4人の人間が長じたさかなクンと関わってくる。

夏帆演じる同級生の女は男と別れて幼い娘連れでさかなクンの居候部屋に転がり込んでくる。でも、男と女の関係にはならない。やがて彼女は出て行ってしまう。

一方で同級生男(柳楽優弥)や不良(磯村勇斗岡山天音)達は、さかなクンの人生の転機に決定的に関わってきて救いの手を差し伸べる。ホモソーシャルな暑苦しい世界観であるのだが、さかなクンの無性キャラをのんが演じる先述の螺旋構造がそれを解消し爽やかさに転化していると思わせるのです。

 

さかなクンの特殊キャラを男が演じる胡散臭さとホモソーシャルな展開の暑苦しさをのん起用が解消する一挙両得がコロンブスの卵を思わせる。唯一無二の孤独も仄かに差し挟み蛸引き裂きのダイナミズムなど沖田演出は緩急が効いて闊達そのものだ。(cinemascape)

 

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