男の痰壺

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そして僕は途方に暮れる

★★★★★ 2023年1月24日(火) TOHOシネマズ梅田4

三浦大輔は「ボーイズ・オン・ザ・ラン」がダメ男を描いて精彩を放っていたが、今作でも再びダメ男を描いて異彩を放っている。素ん晴らしいと思う。自分がダメなことを思い知ってクソったれーと男の意地でみっともなくも足掻いてみせる。で、どうにかなるかまでは描かれていませんけど。大概はどうにもならんのですがね。

 

本作では、ダメ男の父親が出てくる。これが、この親爺にしてこの息子かというダメ野郎でダメの遺伝というものに深い感慨を抱かせる。親爺が息子に言う。にっちもさっちも行かなくなったとき俺はいつもこう独り言つ。「おもしろくなってきやがったぜ」と。

その道化じみた虚勢があまりにツボで爆笑してしまった。多分、俺もこれからの人生で行き詰まったら密かに独り言つだろう。「けっ、おもしろくなってきやがったぜ」と。

 

ここぞというところで思いの丈を絞り出す。それは、事前に脚本家が練って熟れた台詞ではなく巧くまとまらない魂の叫びとでもいうもので、家族を前に何考えてんのか言えと問い詰められて絞り出す。てんで様にならないのだが実人生に於いてはそんなもんです。三浦大輔はそうさせた上でスカしてみせる。

その挙げ句の大団円かと思わせての2段構成も、いやいや人生そんな甘くないっすよです。そこで、おもしろくなってきやがったぜか。引かれものん小唄めいて泣けるぜ。

 

ダメ男を描いた映画は数多あるのだが、ダメの遺伝にまで領域を広げて改めて考えさせられる。魂の叫びがてんでお話にならないヘタレも常道を覆す離れ業。2段落ちの構成が示唆する人生の辛酸。そんなとき俺も独り言つのさ「おもしろくなってきやがったぜ」と。(cinemascape)

 

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