男の痰壺

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結婚式場のささやき女将

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先日、息子の結婚式があって参加した(当たり前だけど)のだが、日取りが決まってから俺は気が重かった。理由は2つある。

1つは金がまたぞろかかることで、新郎の親だから礼服に100均の白ネクタイでは済まないわけで、父親はモーニング、母親は留袖が常識なんだそう。息子にも恥かかさんようにちゃんとしてくれよと釘さされるのだった。

結婚式場でもレンタルしてくれるのだが、2人で20万は超える。1日のことでアホらしいけどしゃーないのか?と思いかけたが、スマホでつらつら見てたら、心斎橋のレンタル屋で安いとこがあって速攻で行って決めた。モーニング他5点セットで2万弱。一方、女房の方もスマホでつらつら見てたら、駅前第2ビルのレンタル屋で安いとこ見つけたそうで、留袖他7点セット+着付け、ヘアセット込みで3万弱でこちらも速攻で決めたのであった。

あーネット時代は便利なもんよのーやれやれこれで一安心だぜーと思いたかっが、もう1つ課題があって、披露宴の締めで行われる親族代表の挨拶を考えなあかんのだ。いややー親族代表の挨拶いややー考えるのめんどくさい。

いややーいややーと思ってるから何も考えず日が経ち結婚式の前日になった。さすがにヤバいと思ってスマホで「結婚式 新郎の父 挨拶」で検索して出てきた例文をテキトーに見繕い継ぎ接ぎして便箋に書いた。でけたーこれで一丁上がりや、あーしんど、酒や酒や酒もってこい。「どんなん書いたん、練習思って一回読んでみ」と言われ読むと「薄っすー、ぺらぺらでいっこも気持ちこもってへんわ」「ええねん、披露宴なんてみんなさんざん酒飲んで、最後の親の挨拶なんて誰もまともに聞いてへんのや、そんなもんや」

 

で、当日を迎えた。式が無事に終わって、披露宴が始まる。勤務先の会社関係は呼ばず大半が子供らの友人ばかりで会場は若やいだ雰囲気だった。「ふっふっふ、ガキばっかで気も楽だぜ」と自己暗示を必死にかける俺。酒飲み過ぎると何言い出すかわからんからあんまり飲むなよと言われてたが、余裕でビール→ワイン→焼酎と飲み進めるのであった。宴も半ばになり、新郎新婦の共通の友人で2人のキューピッドになった子が挨拶に立った。この彼のスピーチが具体的なエピソードなど交えて心のこもった大変よろしいもので、アハハと皆と一緒に笑い泣きしつつ心中では「ヤバい、この熟考して練り上げられたスピーチに比べて俺のはぺらぺらもいいとこやんけ、どうしよー」と冷や汗が湧き出しはじめる。「親としての、親だからこそのエピソードを考えるんや、考えろー思い出せー、出てこいエピソード」とまあ、しかし酒で混濁し始めた脳細胞からは何も出てこないのであったが。

 

あっという間に時間は過ぎる。苦渋の思いで内ポケットから挨拶書いた便箋を出しては見直しを繰り返す俺を見かねて義弟が「大丈夫かいな、そない緊張せんでもええやん」とか言うが「何かないかーエピソード、出てきやがれエピソード」とひたすら飲み続ける俺。

と、突然、係の女性に出口の前に誘われた。新郎新婦を挟んで両家の親が立ち皆さんに挨拶です。深々と頭を下げる。もうええやろと頭を上げると目の前に差し出されたマイクがあった。いきなり?このタイミングで?

その瞬間、到来しそうな空白を裂いて、あるワードが天啓のように閃いた。それは「長居陸上競技場」。定例的あいさつのあと息子が陸上競技をやってて応援しに行ったエピソードを辛うじて挟みつつアドリブで乗り切った。と自分では思えた。だがアドリブだから何度かフリーズする。女房が横から「お礼言うなら本人向かな」とかささやき出す。やがて俺は女房のささやきを忠実に実行するロボットと化していく。

 

宴が終わり彼女が来て「お父さんサイコーの挨拶でした、友達もみんなそう言ってました」と言ってくれた。俺はそう言われて確かにウケてたよなとか満更でもなかった。でも義弟が来て「オモロかったで、夫婦漫才」と言われてそやったんか思った。それを聞いてた女房は機嫌が悪かった。

「あれじゃまるで私ささやき女将やんか」

 

✳︎ささやき女将とは、2007年に起こった老舗料亭、船場吉兆の食品偽装事件に際し、記者会見の席上で釈明に臨んだ長男がフリーズしたときに横からあれこれ指図した母親で社長の女将の声がマイクに拾われて筒抜けだったバカ受け事件で彼女に付けられた呼称である。

 

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