男の痰壺

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EO イーオー

★★★★★ 2023年5月12日(金) シネリーブル梅田3

ブレッソンの「バルタザール」をスコリモフスキーが再映画化すると何かで読んだときふーんとしか思えなかった。そもそもに「バルタザール」自体が大しておもろくもなかったから。

しかし、これは名匠の佳品を変態ジジイ監督がリブートしたものとしては、アベル・フェレーラの「バッド・ルーテナント」に対するヘルツォークのそれに並ぶものだと思います。高踏的なテーマは一旦置いといて己が世界を自在に繰り広げて見せている。

 

ロバと少女との関係性は薄まり、EOは一層の無機化が施される。あっちこっちで人間のくだらない営為を眺めたりするが、スコリモフスキーはよくある冷笑視線をEOに託したりしない。あくまでロバはロバなのだから。可愛いワンちゃんやニャンちゃんがネット上で氾濫しバカげた擬人化が為される現代へのアンチ宣言である。(ちゃうか?)

 

それにしてもスコリモフスキー85歳にして尚、表現に対する攻撃性と暴力性が衰えないのが驚きで、フーリガンどもから謂れのない仕打ちを受け半死半生になったEOの跳躍した描写など、イメージングの自在さは止まるところを知らぬ感がある。

傑作だと思います。

 

擬人化や愚かな人間の営為との対置といった常套ではなく、おとなしい生物としての無為なる存在EO。その徹底した物語の即物性の一方での暴力と叙情を漲らせた描写の連鎖。フーリガン乱入以降の件は佳境をアニメに託す安易へのスコリモフスキーの返歌だ。(cinemascape)

 

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