男の痰壺

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彼女がその名を知らない鳥たち

★★★ 2017年10月25日(日) MOVIXあまがさき2
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原作を読んであんまり時が経っていないし、大きな改変もないので印象は「読まずに見た」より落ちる。
力作だとは思う。
しかし、原作の最初で最後的な一発入魂ぶりを思うと、まだ緩いのだ。
 
原作の肝となるポイントは2点ある。
【以下ネタバレです】
 
①女流作家にしか描けないだろう、特定の男に対する生理に根差した嫌悪感の表現。
これが痛烈で徹底しており、男の俺からみたら恐ろしいというか、ムカつくというか、もう勘弁してくれというくらいの怨念に根差したかのようなレベルに達していて、それがあるからこその終局の鮮やかな世界の転倒が効く。
 
②概ね主人公の主観で語られる点を利用したミスリード
こいつが犯人ちゃうんか…という予断をうっちゃり決めてひっくりかえす。
 
映画は主観描写で全篇押し通すわけにいかんので、②に関してはあんなもんだと思う。
むしろ、その点にあまり力点をおいてないようにも見える。
 
問題は①であって、主人公のクソ女ぶりは過不足ないのだが、問題は陣治だ。
阿部サダヲは力演してるが、作り込んだ感が随所であらわれ嫌悪感を薄めてしまう。
(顔の汚れやガテン系の衣裳とか)
これでは、ドブネズミの正体は天使だったみたいな世界の転倒には遠いのだ。
 
蒼井優は圧倒的といっていい。
ドスの効いた発声と甘え声の使い分けがちょっと他の追随を許さない感じだ。
 
原作では最初の方にあった気がする2人の出会いからの描写。
映画は、これをクライマックスにもってきた。
ベタだが良い脚色だった。
 
展開のミスリードも終盤の乾坤一擲な世界転倒も女流作家の生理に根差す男性嫌悪が決め手となってるが、善良なる男子たる白石も阿部も「陣治」の造形に於いて本質に迫れない。そこが映画的達成に至らぬ要因。一方蒼井は余裕でクソ女を引き寄せる。(cinemascape)