男の痰壺

映画の感想中心です

わたしたち

★★★★ 2017年11月19日(日) MOVIXあまがさき4
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本当の何かをスクリーンに刻もうとする強固な意志が貫徹されている。
ユン・ガウンという新人女性監督によるものだが、イ・チャンドンの弟子筋だそうだ。
さすがだと思う。
 
映画で描かれるイジメは、概ね嫉妬と羨望に由来している。
自分より勉強ができるとか自分にはいない暖かい家庭があるとか。
 
だが、イジメの発端はそうであっても、それが拡散していく過程では自分より劣位の者を欲する心理が加担する。
勉強ができる。スポーツが得意。喧嘩が強い。人を笑わせる…とかのとびぬけた能力。
…を持たないその他大勢が加担するのだ。
映画は、その部分は深くは描かない。
 
一見、やりきれない話なのだが、主人公の両親は娘を愛しているし、やんちゃな弟はかわいい。
そういったものは、追い込まれた現実世界の当事者にとって目に入らない。
だから、自殺する子供があとを絶たないのだ。
でも、世界が拡張すれば違う視座に建てるんだよ…ってことだろう。
 
2人の少女のキャスティングは微妙な隘路を縫って救い上げたような絶妙な選択だ。
主演の女の子のアップが多用されるが、その少女らしい唇や肌の質感を監督は愛でている。
かけがえのないものだと思う。
 
世界がミニマムに子供の関係性の世界に留まるのが惜しい。
おじいさんの葬式のあと、家族4人が海辺で佇むシーン。
その灰色に空と海が融解したかのようなショット。
ああいうシーンがあと2、3あれば世界が拡張しただろう。
 
絶妙に微妙な2人のキャスティングを誂え作り手は徹底的に突き放すが催涙的な加担はせぬ一方で彼女の寝顔のあどけなさは愛でて止まない。それこそ親が子を見守る視線であるかのように。強固な演出だが世界は限定される。葬儀のあとの海辺が一瞬風穴を開けた。(cinemascape)