男の痰壺

映画の感想中心です

映画2017

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晩春の頃だったと思う。
CinemaScapeというサイトのコメンテーターと飲んだ。
おっさんばっかり4人。色気もくそもないのだが、一種の腐れ縁である。
そのときの話だ。
 
「けにろんさん、あんた、近頃5点ばっかりつけてるけど、ちょっとおかしいんちゃいまっか」
 
KZN氏から藪から棒に言われた俺は、一瞬口ごもってしまった。思い当たる節が無いでもなかったからだ。
ジャンル映画としては精々中の上クラスの「ザ・コンサルタント」とか「パッセンジャー
女性映画の小品「未来よ、こんにちは」とか「スウィート17モンスター」とかに5点満点をつけていた。
少々、勢いに乗ってやりすぎたかなと内心で思っていたので、指摘されてむかついた。
 
「あほんだら!そんなことよりな、お前ら」
俺は、すかさず反攻に出たのだ。
「そんな問題ちゃうやろ!」
固唾を飲んで黙りこくる3人。
「だいたいなあ、腐ってもキムタク主演でやな、三池が監督した『無限の住人』ってあったやろ。あれ作品登録されて1か月も経つのにコメント書いたん俺だけやないか。そっちの方が問題ちゃうんかい!」
完全に問題のすり替えなのだが気合が勝った。
「どう思っとるんじゃ!」
クワッと眼光すさまじく正面のKZN氏を睨み付けると、彼は小さくうずくまった。
「どう思っとるんじゃ!」
ジロリと射すくめる眼差しを受けて、横にいたSCN氏は、アタフタとあらぬ方に目をパチクリさせた。
「ふっふっふ…」
そのとき、はす向かいのSNT氏が口を開いたのだ。
「そんなもん、見んでもわかりますやん」
一瞬静まった宴席。
そして、KZN氏、SCN氏が勝ち誇ったようにムクムクと顔を上げる。不敵な笑みを浮かべながら。
一瞬にして攻守は逆転したのだった。
 
その後のことは、あまり覚えていないが、KZN氏から前半で何が一番やったと聞かれ、つい出来心で「わたしは、ダニエル・ブレイク」と答えてしまった。
本当は「アシュラ」とか「パーソナル・ショッパー」とかが好きだったのだが、何故だろう。
「俺だって、社会的な問題意識もっとんねんぞ」と博識なKZN氏の手前、見栄を張ったのだろうか。
しかし、一旦、言ってしまった嘘はつき通さねばならない。
まあ、下半期でもっとすごい映画が出てくるやろし、そうなりゃ『ダニエル・ブレイク』も消えるわ。
そう思いつつ、半年が過ぎてしまった…。
 
今年、映画館で163本観ている。
多分、今までで最高本数かもしれない。
余裕ができて時間が増えたわけではない。むしろ、俺をとりまく状況は厳しさを増してるのであった
であるから、相当に無理してるわけで、正気な状態で見てる方が少なく、たいてい睡眠不足。
アホなことしとるなとは思う。
現実からの逃避なのだろう…多分。
 
例によって自己採点上位の作品を新旧ないまぜで挙げると。
 
日本映画 ★★★★★
 
日本映画 ★★★★
「ぼくらのご飯は明日で待っている」「破門 ふたりのヤクビョーガミ」「彼らが本気で編むときは」「3月のライオン 後篇」「ハルチカ「祇園囃子」「最高殊勲夫人」「家族はつらいよ2」「からみ合い」「ふたりの旅路」「彼女の人生は間違いじゃない」「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」「愛の渇き」「三度目の殺人」「幼な子われらに生まれ」「ユリゴコロ」「アウトレイジ 最終章」「下町の太陽」「霧の旗」「ミックス。」「ビジランテ
 
外国映画 ★★★★★
ザ・コンサルタント」「奇跡の人」「お嬢さん」「わたしは、ダニエル・ブレイク」「パッセンジャー」「アシュラ」「未来よ、こんにちは」「スウィート17モンスター」「おとなの事情」「フリー・ファイヤー」「パーソナル・ショッパー」「20センチュリー・ウーマン」「ローサは密告された」「パターソン」「野性の少年」「動くな、死ね、甦れ」「KUBO 二本の弦の秘密」「スター・ウォーズ 最後のジェダイ
 
外国映画 ★★★★
「聖杯たちの騎士」「バーバリー・コースト」「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」「アラバマ物語」「マグニフィセント・セブン」「揺れる大地」「ナイス・ガイズ!」「セル」「哭声 コクソン」「キング・コング 髑髏島の巨神」「ムーンライト」「午後8時の訪問者」「バージニア・ウルフなんかこわくない」「ある決闘 セントヘレナの掟」「ジェーン・ドゥの解剖」「セールスマン」「ジュリアス・シーザー」「マンチェスター・バイ・ザ・シー」「残像」「ありがとう、トニ・エルドマン」「ダンケルク」「あこがれ」「パリのナジャ」「チキン」「アトミック・ブロンド」「ローガン・ラッキー」「わたしたち」「ジュリーと恋と靴工場」「エンドレス・ポエ トリー」「ナイン・イレヴン 運命を分けた日」「ハネムーン・キラーズ」「熱砂の秘密」
 
日本映画は、「バンコクナイツ」を未見で「花筐」は関西未公開であることを割り引いても惨憺たるもんものであった。そんななか、日活ロマンポルノリブートという意欲的な企画から1本にせよ佳作が産まれたことは価値があると思う。矢口史靖大根仁冨永昌敬の作品はそれぞれの過去の傑作「裸足のピクニック」「恋の門」「ローリング」に及ばないのに対し、白石和彌はまだ伸び代がありそうだ。
 
外国映画は先述したとおりである。「ローサは密告された」と「パターソン」が後半、特に印象的だったが嘘を糊塗できるには至らなかった。恥を忍んで本当の自分に戻ろうと思う。昨年、黒沢清の「クリーピー」をベストとしたときにも書いたが、監督の力量云々を凌駕して映画の神様が降臨したとしか思えない瞬間にこそ俺は打ち震える。打算ではなく本能的なものと僅かの偶然が奇跡的に結びついたときに、そういうことは起こるようだ。アサイヤスの新作には、その瞬間がまぎれもなく頻発していた。
 
旧作では、社会的な関係性を絶たれた子供への教育を描いた映画2本が印象的だった。「奇跡の人」と「野性の少年」なのだが、いまさらヘレン・ケラーか…って思いをはるかに超えて傑作たりえていた。トリュフォーの映画も「柔かい肌」や「アメリカの夜」を超えて彼のベストに思える。
 
そういうことで、2017年のベストは
「牝猫たち」
 
*蛇足だが、とろサーモンの村田が「牝猫」ではゲス男を演じて秀逸だった。「M1グランプリ」での優勝はきれいごとではすまない汚れ仕事の土台に立ってるんだろう。(俺は圧倒的に和牛派なんだけどね)