男の痰壺

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きみの鳥はうたえる

★★★★★ 2018年10月18日(土) テアトル梅田1
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個人的に現況では「素敵なダイナマイトスキャンダル」を抜いて本年邦画ベストと思う。
 
映画を見ていて最初の数ショットで「この映画は傑作なんじゃなかろうか」と思えるときがある。
だいたいそういうのはカメラに負うところが多いのだが、これも素晴らしい。
四宮秀俊という人で「貞子vs伽椰子」とか「超能力研究部の3人」とか見てるが、この映画のような艶はなかったように思うのだが…監督・三宅唱の前作も担当してるので性が合うんでしょう。
 
彼らと彼女は、モラトリアムといえば聞こえがいいが、閉塞状態に置かれているんだと思う。
そういう状況を打破しようとも思わないし、その切欠となる異なる世界も対置されていない。
そういう日々の中で浮遊するように生きているだけなのだ。
これは、高度成長からバブルを経て失われた20年の果てに沈殿した状況を描いて優れて今である。
 
俺なんかは、こういう無気力で何考えてるかわかんない若者が職場にいたらムカつくタイプなので、正直、この映画の彼らの顛末に共感したとか感動したとかはないのであるが、わかるような気がする。
 
何者かになれるという幻影が最早信じられない時代が到来しているし、この世の中に確実なものは何もない。
そういう時代に剥き身をさらして生きていかねばならないなら、彼らのように何も考えないほうがいい。
 
努力もなく濡れ手で粟で女をGETした主人公は最後の最後で鎧を脱ぐ。
そこに一抹の希望がある。
 
モラトリアムでない完全な閉塞を自覚することもできない今とそこで彼らと彼女は水槽の中の海水魚よろしく浮遊してる。足掻く奴を理解もしたくないしコンビニと遊興場があればいい。攪拌する何かが到来する前の停滞と混沌を刹那な艶で描き切った進行形の哀歌。(cinemascape)