男の痰壺

映画の感想中心です

彼が愛したケーキ職人

★★★★★ 2018年12月16日(日) テアトル梅田2
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これは、cinemascape のある方の評点をみて見に行ったが、本当に傑作であった。
今でも、俺の脳裏に異郷のアパートの部屋で孤独に打ち震える、がたいのデカい男の姿がよみがえるのだ。
 
【以下ネタバレです】
 
この邦題はイケてないと思う。
「私が」ならわかるが「彼が」ってのが違和感あるし、どうせなら「ベルリンのケーキ職人」とか「ケーキメイカー」とかにするべきで、わかるやつにはネタバレだろう。
で、案の定というか、そのケーキ職人が男だったので、ああゲイの話かってわかるのである。
なんか、しんどいなとか思ってみていたが、映画は、そこから転がりに転がる。
 
多くの2項対立が内在し、それが映画を突き動かして成立させている。
セクシャリティや宗教や言葉や文化など。
アウシュビッツを遥か彼方にみる現在、イスラエルから見たドイツってのはどう見えるんだろう。
…とか。
 
中盤で彼の出自が語られる。
そこから、一気に映画は見るものの内部に浸食し同化するだろう。
孤独ってのは、本人が気づいてないほどに哀しいものなのだ。
それでも、物事はうまく回り始めたかのような折の急転。
罵倒されしばかれた彼は1人部屋に残される。
そして、彼は初めて耐え切れす嗚咽するのだ。
孤独であったと自覚した瞬間である。
 
ラストの解釈は、どうなんだろう。
俺は、希望のあるものだと思いたい。
 
多くの2項対立が映画を突き動かす。セクシャリティや宗教や言語だが決定的なのはユダヤとドイツという民族間の深層の相克。だが、そういうドラマトゥルギーさえも超える彼の出自で知る止め処ない孤独。映画は反転し自走し破砕する。ただ一抹の希望を残して。(cinemascape)