男の痰壺

映画の感想中心です

映画 2018

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多くの災厄に見舞われた1年であった。
 
1月に、心筋梗塞を発症し10日ほど入院し、予後的措置として2月にも10日ほど入院した。
俺は以前に脳梗塞も2回発症してるので何となく怪しい予感を覚えていたので、いざそのときが来ても動転することもなかった。
1か月ほど断続的に訪れる心臓の痛みが、それまでと違って1時間以上も去らないので、夜中に女房に言って救急車を呼ばせた。
自力でも病院に行けた気もするが、そうすると待たされるし、たぶん間違いないとも思ったので119番の世話になった。
病院で即カテーテルとなって有無を言わさず入院となったのであった。
そのときに、血栓が多すぎて処置しきれず、1か月後に再入院となった。

6月に大阪が直下型地震に見舞われた。
その日、俺は仕事だと嘘を言って家を出て映画を見まくるつもりで会社の寮で時間をつぶしていた。
激震に襲われた瞬間に俺の脳裏に阪神大震災のことが甦り、前述の心筋梗塞と同じく動転することはなかった。
人間、何事も2度目3度目となると動顛しなくなるものだ。
女房に電話して安否を確認した直後、シネスケのKZN氏からメールがあった。
大丈夫かいなということだったが、ありがたい話である。
以前の病気のときとか、その他仕事上の悩みとかをWEBでつづったときにも心配してメールをくれる人がいた。
シネスケとは有り難いところだと思う。
そのくせ、東北の震災のとき、思い浮かんだコメンテータの方々に俺は何のお見舞いもしていない。
思いやりとか気遣いとかを今更ながらに考えさせられた年でもあった。
結局、電車は終日止まって映画館も休館した。

9月に台風21号が大阪を直撃した。関空が水没してタンカーが連絡橋にぶつかったあれである。
その日、俺は仕事で暴雨風の中を走り回らざるを得なかったのだが、翌日は仕事と嘘を言って映画を見まくるつもりであった。
しかし、電車が止まるのを見るにつけ、翌日もあかんやろうと判断し、休みをとったとか適当に言って家に帰った。
ところが、家に帰ったはいいが前日から停電し、結局3日にわたり停電は続いたのである。
大災害に見舞われて数か月もライフラインが復旧しないことを考えると、3日くらいなんやねんということだが、都心は全然問題なく電気のある日常が続いており、そこから電車で俺の家に帰ると闇の世界が訪れるのだ。
これは、つらいものがあった。
いらついて焼酎を飲んでも氷がないと美味くない。悪酔いするだけであった。
ずっと、梅田で泊っていたかったが、家族の手前できなかった。
まあ、映画どころではなかった。

喜ばしいこともあった。
秋口にシネスケのPNS氏が来販しSNT氏、SCN氏を交えて飲んだのである。
我々3人が居酒屋で席について待っているとPNS氏がおっとり刀で現れた。
氏は我々3人を鋭い眼光で順次睥睨するとゆっくりと腰をおろした。
そして、開口一番俺に言い放った。
「わりゃあ!さぼりくさってけつかっとんのう」
俺がシネスケ離れをしつつあると勘違いしてるみたいなのだ。
「ようよう精出してもらわんとのう」
何を言い返す気力もなく俺は頭を垂れるのであった。
そのあと、2件目まで飲んで帰ったが何を話したのであったか全然覚えていない。
少なくともシネスケの現状とか将来とかは話題にもならなかった。
もはや、俺たちは皆、倦んで疲れて諦めの境地なのが歴然としていた。

そんな1年であったが、それでも映画館で136本の映画を見ている。
シネスケでの採点上位を新旧交えて挙げる。

日本映画★★★★★
婚期
素敵なダイナマイト・スキャンダル
妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ
SUNNY 強い気持ち・強い愛
響 HIBIKI
お茶漬の味
浮草
生きてるだけで、愛。

日本映画★★★★
嘘八百 伊藤くんAtoE エルネスト 嘘を愛する女 花筐 HANAGATAMI blank13 月夜釜合戦 孤狼の血 探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点 瘋癲老人日記 終わった人 空飛ぶタイヤ 万引き家族 焼肉ドラゴン パンク侍、斬られて候 カメラを止めるな! 検察側の罪人 海潮音 泣き虫しょったんの奇跡 逆噴射家族 愛しのアイリーン 寝ても覚めても 若おかみは小学生 銃 ハードコア 来る 斬、

外国映画★★★★★
The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ
ハッピーエンド
ラブレス
フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法
正しい日 間違えた日
ミッション・インポッシブル フォールアウト
彼が愛したケーキ職人
フレンジー

外国映画★★★★
ルージュの手紙 RAW 少女のめざめ 早春 ブラックパンサー シェイブ・オブ・ウォーター 聖なる鹿殺し キリング・オブ・セイクリッド・ディア レッド・スパロー ヴァレリアン 千の惑星の救世主 メイド・イン・ホンコン ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男 15時17分、パリ行き アベンジャーズ インフィニティ・ウォー 心と体と アイ・トーニャ 史上最大のスキャンダル 私はあなたのニグロではない ビユーティフル・デイ ワンダー 君は太陽 天命の城 ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー クレアのカメラ Bao ハリケーン 判決、ふたつの希望  幌馬車 ザ・プレデター イコライザー2 クレイジー・ リッチ! つかのまの愛人  ボヘミアン・ラプソディ ロイ・ビーン ソフィーの選択 三人の女 田舎司祭の日記 恐怖の報酬 くるみ割り人形と秘密の王国 アリー スター誕生 見えない恐怖

日本映画の採点を見ると「家族はつらいよⅢ」とか「SUNNY」とかが★5で、例えば「万引き家族」とか「パンク侍」とか「寝ても覚めても」とか「愛しのアイリーン」が★4なのはどやねんと今更思ったりもする。しかし、そのときの感情を思い出すなら、これらはアラフォー女性を主軸にした物語で、高校生とかのガキ映画がのさばる今の日本映画のなかで、実は本来のあるべき勢力図の復刻へ向けた揺り戻しなのではないかと思ったりもするのだ。そこに何か意気に感じるものがあったんだと思う。主演の篠原涼子夏川結衣がノーブルに平時の主婦像を刻んでくれたのも好感度大であった。
そうは言っても「素敵なダイナマイトスキャンダル」、「きみの鳥はうたえる」、「生きてるだけで、愛。」の3作が作家性と描かれた世界の幸福な共振度合において抜きんでている。そのなかでも映像のクリアネスが手法と劇的なシンクロを見せた「きみの鳥はうたえる」が最も好みであった。
旧作では、まったく食指の動かなかった小津4Kなる企画上映での、いまさらの小津作品2本に圧倒的に射られた。傍流とも言える2本であったが原節子不在の小津はここまで毒を吐けるのかと慄きを覚えた。わけても「浮草」は真に圧倒的だった。

外国映画に関しても強烈な作家性の発露が映画内世界と融合した「ハッピーエンド」、「ラブレス」、「正しい日 間違えた日」の3本が特に素晴らしかった。ズビャギンツェフはともかく、ハネケ、ホン・サンスに関して最近のものは好んで見てきたがフィルモグラフィ中でも突出した1本ではないだろか。中でも「ハッピーエンド」が拡散延伸する手法の斬新をも呑み込む映画作家の自我が空恐ろしく怪物的とさえ思わせた。
旧作では、長年見たくとも機会が訪れなかった作品を見れた年だった。「ロイ・ビーン」や「三人の女」や「フレンジー」や「恐怖の報酬」など70年代の映画群だが、ベトナム戦争の終焉と金融システムの劇的変革の狭間におかれた時代特有の饐えた匂いがする。そのことを噛み締めることにさして意味はないかも知れぬが、それは俺にとって切ない郷愁を揺り戻す麻薬に等しい快楽なのだ。これらの多くをスクリーンにかけてくれたのはプラネットスタジオプラス1であった。

あれこれグダグダ書いたが、そんなわけで2018年ベストは
「ハッピーエンド」