★★★★ 2019年3月13日(水) 大阪ステーションシティシネマ7
見る前から知ってたわけじゃないが、原作ピエール・ルメートルってのが意外であった。
最近はめっきり本を読まなくなったが、それでも彼の「その女アレックス」は、ここ数年で読んだ本ではダントツでショッキングだったからだ。
呵責のない酸鼻を極める描写と、価値観が再度にわたり転倒する構成が図抜ける。
映画は、主人公である戦禍で顔の半分を失った男の心理に踏み込まない。
であるから、ラストの帰結は本当に意外であった。
復讐とか荒廃とか怨念とかの、ありがちな映画を起動させるモチーフではなく「愛」だったんですなあ。
その変がジュテームのお国ってことでしょうか。
俺は、この映画の鑑賞中からクロード・ルルーシュの映画が頭をよぎっていた。
「愛と哀しみのボレロ」とかその源流になったと思われる「マイ・ラブ」とか。
要は、あんまりふみこまないサクサク感とでも言おうか。
冒頭の素晴らしい俯瞰の移動撮影による戦場の惨禍。
生き埋めになった際の死馬の吸気を吸って生き延びる件。
そして、悲惨な顔面の裂傷。
これらは、ルメートルらしい凄惨なエピソードだがあんまりエグくないっす。
怪我の男に付き添い唯一心を通わせる少女の不可思議。
面倒見のいい男と女中の恋愛。
こういったものは、原作ではたぶん十全に描かれたのだろうが、割愛されて舌足らず感が残ります。
それでも、俳優としてはともかく、監督としてさしたるキャリアのないデュポンテルの演出は実に堂に入ったものです。