男の痰壺

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12か月の未来図

★★★★★ 2019年5月6日(月) テアトル梅田2
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1人の教師の成功譚のような体裁をとっているので、現実はそんなに甘くねえよの声も聞こえそうだ。
が、それでもいいんじゃないかと思えるのだ。
描かれたのは膨大な移民と、それがもたらした格差。
 
エリート校のベテラン中年教師が郊外の貧民層の学校に転勤させられる。
この男、一見スノッブなやな野郎に見えるのだが、そうじゃないことは直ぐにわかる。
彼は、生徒に阿ったりはしない。
ギャグをかまして笑いをとるとか、へりくだったレベルを落とした授業をしたりとかはない。
そのかわり、深夜まで、多国籍の慣れない名前の集団を必死に覚えようとするし、授業の方途も必死で模索する。
その繰り返しが、生徒の心を変えていくのだという理想郷を描いている。
 
おやつ会なるものがあると聞いて、幼稚園じゃあるまいしと難色を示すが仕方なく行う。
そこで、生徒が作った手作り(ドラッグ入り)のケーキを食ってぶっ倒れ病院に担ぎ込まれる。
医者から、お楽しみもほどほどにしなさいよなんて言われるが、決してそのことを公にはしない。
 
課外授業で、遊園地があいつらにゃあちょうどいいって他の教師のアドバイスを聞くが、ベルサイユ宮殿に行く。
そんなのつまんないとのブーイングを押して行ったそこで、ふざけた生徒がマリー・アントワネットのベッドに乗っかり飛び跳ねの大騒ぎ。
大問題になって、その生徒は退学になる。
そのとき、これでもかの食い下がりを見せる真摯さに打たれる。
 
愛情とか理解とか建前のきれいごとじゃなく、仕事に対して誠実で真摯なのだ。
それが、ものごとを変えることに繋がる。
って、もう一度言うが、これは理想郷だ。
とは、言っても、これを撮った新人監督は2年間も教室に通って取材してるらしい。
脳内で描かれたもんじゃないことは見ていればわかる。
 
あからさまにステロタイプな雛形を持つ物語だが、流入した難民が都市郊外でスラム化するフランス現在のリアルとスノッブだが教育という1点に於いては誠実で真摯な主人公の設定が補完して希望を垣間見せる理想郷が現出する。同僚の女教師との距離感も軽やか。(cinemascape)