男の痰壺

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ピアッシング

★★★★ 2019年7月4日(木) 大阪ステーションシティシネマ
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村上龍の原作は読んでいるのだが、どんなんだったか忘れた。
だが、SMに傾倒していたころの一連の作品のひとつであろうことはわかる。
であれば、悪夢のような「オーディション」が想い出させられたりもするのであるが…。
 
ミイラとりがミイラにみたいな話。
殺人願望が冷め遣らず、一念発起で初犯に臨もうっていう、快楽殺人者の卵みたいな男。
そいつが選んだターゲットが、実は怪物であった。
 
この役を、ミア・ワシコウスカが演じて完璧である。
もともと変態じみた冷徹さが見え隠れしていた彼女であるが、ここでは中年太りしかけの弛緩した肉体を曝け出して一線を越えた感じがする。
これが、次々に予想を凌駕するリアクションを繰り出すあたり、ほとんどワシコウスカショーの趣。
 
この映画、この手のジャンルムービーと一線を画すのは、根底に笑いやユーモアが垣間見える。
ただし、この笑いってのが表面づらではなく、真の恐怖や苦痛の果てに出てくるしろものであり、よくあまりに悲惨で笑うしかないっていうが、そんなもん経験したものにしかわからんのであって、この監督わかってるよなって思えるのだ。
 
デ・パルマまんまなスプリットスクリーンやヒッチコックなタイトルバックなど、要所でサビも効いている。
 
弛緩したケツが精神の爛れをも表出させるワシコウスカの怪演だが、逸脱し切ったキャラの変転が予断を上回る。挙句に浮かび来る猟奇世界の根底に横たわる逆説的ユーモア。デ・パルマなスプリットスクリーンやヒッチなクレジットなど衒いない押し。(cinemascape)