男の痰壺

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水を抱く女

★★★★★ 2021年4月23日(金) テアトル梅田2

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全く予備知識なしで見たので、その強引とも言える奇想譚への置換に戸惑いつつも、骨太な描写力に持っていかれる。

【以下ネタバレです】

新しい彼氏との出会いの場で金魚のでかい水槽が割れるのだが、決して巧いモンタージュでない。そんな程度で割れるか?と思う。

元彼の家に忍び込んで、自宅プールで泳いでる其奴を沈めて殺すのだが、いくらなんでも女性の力で大の男を死ぬまで水中に押し込めるってのは無理筋じゃないか。

 

とまあ、どうやろうと思う点も間々あるのに、1人の幸せにはなれない女の運命を徹頭徹尾なまでに神話チックに描いてやろうという確信の前には些細なことに思えてしまう。

クリスチャン・ヘッツォルトって初見ですが、昔のポーランド映画のような硬質のロマンティシズムのなかに否応ない政治性を内包した底知れなさを感じさせる。

この映画でも主人公の仕事を都市としてのベルリン史をジオラマを前にナビゲイトする職員としている。世界から隔絶されたのような博物館の静謐と歴史への遡及は、浮世離れたファンタジーにエッジを効かせている。

 

現世と異界の狭間でのロマンティシズムが下手巧とエッジの効いた硬質さの混合で語られていく。静謐な博物館での都市の開発ナビや湖沼での潜水作業といった職業も世界からの隔絶を弥増させる。そして悲嘆の女霊は消え去るしかない。神話への置換は成就された。(cinemascape)

 

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