男の痰壺

映画の感想中心です

陰陽師0

★★★ 2024年4月23日(火) MOVIXあまがさき7

夢枕獏の本は10代から20代にかけて随分読んだので「陰陽師」も何冊か読んでいる。でも、これは前史とも言うべき安倍晴明の若年時代を描いていて、そういうのが原作にあったのか知るところではないが、もし監督の佐藤嗣麻子のオリジナルなのなら「陰陽師」というテーマに対して凄い熱意だと思います。

 

このシリーズ、晴明と博雅のバディもんという色彩が濃厚にあって、原作でも折に触れて「博雅、お主はほんとにえー男よのー」と晴明が言う。そのホモソーシャルな世界観に、何がええ男なんよ、と一抹の胡散臭さを感じずにはいられなかった俺なんですが、今回は博雅の悲恋が物語の大きな部分を占めていて、その経緯もあってかええ男よのーが抵抗なく腑に落ちる。演じる染谷も狂気を完全封印してやっぱ巧い。

 

博雅が思いを寄せる幼馴染のお姫様が運命に翻弄され、ときに感情を剥き出しにしつつ、悲嘆に暮れて、それでもきりりと前を向いて運命を受け入れていこうとする様がいい。演じる奈緒としても「マイ・ブロークン・マリコ」の被虐の呪詛を纏ったかのような役柄から大転換だが、女の土性っ骨を見せて素晴らしい。

 

総じて女性監督ならではの、お花が咲き乱れお星様キラキラみたいなCG使いが、見ててこそばゆいのではなく開き直りさえ感じさせるのも、先述の奈緒の描き方と通底してるように思えました。夢枕獏的な妖怪変化が出てきてグモモモゥオーなもんは微塵もないのけど、世界観は全うしている。

 

ただ、やっぱ総じてCG使いが大味で安いのはもったいない気がしました。

彼らが本気で編むときは、

★★★★ 2017年3月1日(水) 大阪ステーションシティシネマ
イメージ 1
結局は育ての何とかより産みの何とかに落ちつく展開なのだが、凡庸とは思わなかった。
そこに至るまでに充分なドラマ上の軋轢が展開されたし、示唆に富んだ細部が豊穣だからだろう。
 
ミムラ扮するネグレクト近似の母親が言う。
「母である前に女」なんだと。
そう言い切る女性は同性嫌悪の対象だろうが、男からすりゃあ志方ないかなと思ったり。
 
小学生のトモがリンコに問う。
「切ったおちんちんどうしたの?」
で、リンコが結構、詳細に手術について説明する。
横で聞いてる同棲相手のマキオの表情が良い。
「うわっ…」って感じがリアル。
 
ジェンダー絡みの主題を引くことなく前面に出しているが、そこに映画はとどまらない。
背後に横たわる輪廻のような母・娘・孫の女3代の性が裏テーマだ。
 
生田斗真は敢闘賞ものだが、映画を脇で支えた女優が良い。
田中美佐子門脇麦が印象的だった。
しかし、何よりの驚愕的な発見は柿原りんかだろう。
このツンデレぶりは子役時代のジョディ・フォスターを彷彿とさせる。
 
結局の育てより産みの親展開が形骸的とは思えぬのはそこに至るまでに充分なドラマ上の軋轢が展開されたし示唆に富んだ細部が豊穣だから。ジェンダー絡みの主題の背後に横たわる輪廻のような母・娘・孫の女3代の性が複層的。掉尾柿原りんかの驚愕的発見。(cinemascape)

姿三四郎

★★ 1977年11月13日(日)  伊丹ローズ劇場

単なる荒技小僧が求道者としての風格を身につけていく変遷が三浦友和には表現し得なかった。最大の弱点はそこだが、手持ちカメラも殊更事象に迫ってリアルな何かを切り取るでもなく安い印象にしかなってない。今更の題材に喜八が乗れたとは思えない。(cinemascape)

血だらけの惨劇

★★★ 2016年7月23日(土) プラネットスタジオプラス1
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ド派手若作りと歳相応の中年女性を往還するクロフォードの凄まじい大芝居が全ての安手ギミックを粉砕する。随所で漂う『サイコ』2番煎じ臭だが凶器をグレードアップしてキャッスルのドヤ顔が目に浮かびそう。若きG・ケネディの変質味も見処だ。(cinemascape)

ラ・ラ・ランド

★★★ 2017年2月26日(日) MOVIXあまがさき6

展望台に2人が行き着いてナンバーが始まる。
そこまで至るにパーティの喧騒がバズ・ラーマンから下品を割り引いた淡泊仕様で、どーなん?と感じていた。
で、始まったんだが…短い。
タップダンスをちょこっとって正月の隠し芸大会かっ…。
アステア=ロジャースのMGMミュージカルをなぞってるだけに尚更だ。
 
総じて、この映画、圧倒的タレントの欠如が致命的だ。
ゴスリングもエマも好きな俳優・女優だが、結局本職じゃないんです。
 
ウエスト・サイド物語」の「ジェットソング」
ジーザス・クライスト・スーパースター」の「私はイエスがわからない」
これらは、俺の好きなミュージカルの掴みの曲だが、凄まじい吸引力を持つ。
それを担保してるのは圧倒的な歌唱力やキレキレのダンスだ。
この映画の冒頭には、それは無い。
 
まあ、ラストの視線の交錯にはさすがに胸打たれたが遅かった。
 
冒頭のユニクロ乃至コカコーラCMチックな群舞のマニュアル臭は未だしも展望台でのナンバーの申し訳なタップは新春隠し芸大会めく。総じて圧倒的タレントの欠如が致命的で俺が見たいのは圧倒的な何かなのだ。ラストの視線の交錯はさすがに胸打つが遅かった。(cinemascape)

デ ジャ ヴュ

★★★ 2024年4月16日(火) シネヌーヴォ

17世紀の人物を調査している男が、日常に戸ば口を開いた過去の世界に迷い込み、その人物を目撃する。

たまたま今「異人たちの夏」の最映画化版を上映してるけど(見てませんが)、似たような話だと思う。現在の日常・風景が地続きで異世界に連結するあたりも同じ。

だが、なんとなく親近感のある昭和の日本における自分の両親との邂逅を描いた「異人」に対して、本作の聞いたこともないスイスの歴史上の人物との遭遇は、申し訳ないんですが何の関興もわきません。

 

正直、ダニエル・シュミットがなんぼのもんか知りませんが、アイデアとしては手垢のついたもんだし、ピノ・ドナジオの音楽が又デ・パルマの亜流品みたいな印象を与えて安手な印象である。オチも予想がついてしまって、やっぱそうくるんかい思いました。

レナート•.ベルタの撮影も「書かれた顔」の鈍色の深みはほんまに素晴らしかったけど、今作では凡庸。デジタル化が上手くいってないんちゃうやろか。

 

kenironkun.hatenablog.com

俺たちに明日はない

★★★ 1976年4月18日(日) 伊丹グリーン劇場

南部の倦怠とドン詰まり感。行き場のない連中が吹き溜まりに寄せ集められたワイルドバンチの痛々しいカラ騒ぎは祝祭的に描かれる余り胸に迫らない。終盤の非情への一気の転調が揺らめき交錯する視線の刹那に結実する。そこだけは確かに永久保存の価値がある。(cinemascape)