No.10
★★★ 2024年4月15日(月) シネリーブル梅田4
何かを伝えるための奇想と、奇想のための奇想では根本的に違って、そのメッセージを読み取れるかどうかはともかく、何かを描きたい伝えたいとの思いが奇想という仮構に重みを与える。一方で奇想のための奇想は受け狙いの浅薄さが臭う。
アレックス・ファン・バーメルダムが言ってる制作動機は後者のようなのだが、見ててそうとも言い切れないとこもあり評価が悩ましい。
劇団内部の4名の男女を描いたものである。役者の男と女は不倫関係で、女の亭主が舞台監督、そしてもう1人初老の男優がいる。要は不倫をめぐる嫉妬やパワハラの話なのだが、微妙な逸脱味も加わって決して退屈なものではない。ブニュエルやハネケやコーエンやランティモスやみーんな逸脱した人間関係を描いてきたのであってバーメルダムもその戦列に加わる可能性はあったと思う。
過剰な行為を行ってしまった男は行き場を失う。その挙句に物語は大きくドライブしてしまって小学生の書いた奇想譚みたいになってしまった。これをスゲーって言うかしょーもな言うかは人それぞれなんでしょうけどね。
俺は独り言つ。こんな展開なら俺でも書けるわ。俺は俺なんかが逆立ちしても太刀打ち出来ないもんを見たいのです。
小劇団内での不倫をめぐるあれこれが搦手から微妙に逸脱し出すあたりまでは抑制された演出と熟練の役者たちが噛み合ってランティモスレベル。だが、逸脱の加速が向かう先が発想に窮した小学生みたいになるのはどうか。なのにドヤ顔で居直られたってネ。(cinemascape)
フェリーニの アマルコルド
トラベラー
貴公子
★★★ 2024年4月15日(月) 大阪ステーションシティシネマ12
韓国映画の山ほどあるジャンル・ムービーの1つと別段見る気もなかったけど、監督が「新しき世界」のパク・フンジョンだと知って見た。だが見た結果は随分と迎合的に甘っちょろくなっちまったなー、です。
つかみは良い。拉致された男が難なく縛を解いて男たち4人を血祭りに上げる。最後の男に至っては楽しむように拷問殺。この男が貴公子(ってこのネーミング日本で勝手につけただけやろ)。相手の血が飛び散っておニューの靴にかかると、アチャー新品の靴なんだぞーと拭きながら相手を虐殺。
このあとどんだけサイコパスぶりを発現するんや、と期待半分ゲンナリ半分で見てたら結局エグいのはこの最初のシーンだけやった。
映画はチルド(韓国とフィリピンの混血児の蔑称で本作の原題)の男と彼の見たことない父とその一族との謀略話で、そこに貴公子がからんでくる。のであるが、実は…と色々話は転がり最後はホンワカええ話やんかとなるわけです。
でも、俺には非情サイドに振り切った「新しき世界」なんかから見ると後退としか思えなかった。
アクション演出としても悪いとまでは言わないが、韓国映画としては昨年の「THE KILLER」なんかに比べてもっさりしてます。
絵に描いたような伊達男でサイコパスでちょい抜作とキャラ詰め込みすぎな貴公子はそれなりに面白くはあるがパク・フンジョンとしては非情サイドから商業的に日和った感が拭えない。終盤のタネ明かしに至っては皆んな安心良かったネ。アクションも普通。(cinemascape)