男の痰壺

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異人たち

★★★★ 2024年4月28日(日) TOHOシネマズ梅田5

大林版の「異人たちの夏」が大好きなのだが、その物語には2種類の異人(幽霊)が出てきて、主人公の幼少期に死んだ両親と現在住むマンションの他の階に住む女性。それで圧倒的に良いのが両親のパートで、これが俺が好きな理由なんですけど、今回の映画ではどっちかというと、マンションの住人の方に比重が置かれてるような気がする。

 

なぜなら主人公の孤独感は幼い頃に両親を亡くして育ったという以上に自らのゲイという性志向により多く基づいている。マンション住人を同じゲイの男性に置き換えることにより、俗に言う「1人でいる孤独より2人でいる孤独」の孤絶感が弥増すという寸法です。

したがって、両親パートも幼い頃の愛された郷愁よりも、忸怩たる思いに耐え忍んできた苦い思いが先に立つ。これでは、あの鶴太郎と秋吉によって形成されたやわらかな空間の濃密さに拮抗するものにはなりようがないんです。

 

だが一方で大林の悪癖から「HOUSE」や「ねらわれた学園」テイストになってしまったオリジナルのマンションパートが、今回は深く沈降するように幽霊と同衾するも又良しの善悪・正邪の地平を越えるような行ってこいで閉じられる。世界の中で2人なら彼岸の向こうに行ってもいい。この新たな境地に関しては今作の方が断然いい。

 

全篇を遍く覆う静謐な基調といい、一貫した揺るぎなさで統御し切ってる佳作だと思います。

 

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