男の痰壺

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この世界の片隅に

★★★★ 2016年12月5日(月) MOVIXあまがさき5

戦中戦後の運命に翻弄される1人の女性の年代記として新しいものでもない。
むしろ映画の世界では鉄板の題材だ。
多くの出来事を彼女は従容と受け入れていく。
殊更に受動的なわけでなく、それなりの確執はあるらしいのだが、それが普遍だった世界の細緻な描写が物語世界を担保するだろう。
 
難事に際し一見茫洋とした彼女の性格が運命を切り開く。
些事に悩む現代の我々の打開力の欠如と対照的であることから勇気を与えられるかもしれぬし、声を担当したのんを取り巻く境遇がリンクして感慨を及ぼすかもしれない。
 
広島や長崎、大空襲下の東京などではなく、呉という郊外都市の戦時下を描いたリアリズムが新しい。
真昼間の畑での作業中に掃射を受ける生々しさ。
日常はあっけないほど簡単に非日常に侵食される。
爆弾や焼夷弾の直撃ではなくとも、その破砕片にさえ一瞬で命を奪われるのだ。
 
温厚に見える作り手が、一旦スイッチが入った途端に激烈な内面を剥きだす。
片渕須直の前作「マイマイ新子」でも、そういう瞬間があったと記憶するが、そういう側面がスケールアップして思いのたけを叩き付ける。
 
難事を彼女は従容と受け入れるがその確執は時代の細緻な描写が担保する。郊外都市の戦時下を描いたリアリズムが新しい。真昼間の畑での日常はあっけないほど瞬時に非日常に蹂躙される。一旦スイッチが入った途端熾烈な内面を剥きだす片渕のマグマの発露。(cinemascape)