★★★ 2023年9月1日(金) TOHOシネマズ梅田4
ドラマ部分はイマイチだがボクシングの試合のシーンは良いという見解をいくつか目にしてたのだが、全く逆の印象だった。試合は凡庸とまでは言わないが、この程度かという感じ。顔面をパンチが捉えるカットが何度かスローモーションであるのだが、全然本当にヒットしてる感じがしない。顔が変形するようなものを他の映画で何度も見てきているので変形しない顔にママごとかとシラけてしまいました。
物語としては良いはずだったと思います。死に時・死に場所をなんとなく探している男の話で、俺もこの歳になってそんなこと考えたりもするもんですから分かる気がする。人生に於いて不義理だった人たちに今更謝るわけではないが、会って何某かの交流をする。そして、あれこれやったのちに最後にこれっていう何かをやり遂げてその時を迎えるんです。
しかし、映画としては流星演ずる若者の物語にそれなりの尺を費やさざるを得ない。結果として佐藤演じる男の物語が描き込み不足になった。特に終盤は来るべき「春に散る」に向けて十分な溜めが醸成されずに淡白すぎる。
最近、来た仕事を次々こなして売れっ子監督と化してきてる瀬々だが、シーンの造形は相変わらず見るべきところが多い。前半に関しては、帰国した佐藤が次々訪ねる面子のキャスティングが全て予測の半歩後ろを向いている。鶴太郎、哀川もだが久々の山口智子には参った。
でも、作品トータルとして届き切れていない。本作や「護られなかった者たちへ」とかもったいないなと思うんです。良いシーンが多いだけに。
キャスティングの妙と各々の力演は味わい深いのだが、話の支点が分散してどっちつかずの印象を免れない。流星の致命傷はなくてよかった。文字通り「春に散る」為の話として佐藤の心の揺らぎこそなのだ。ファイトシーンも迎合的だし肉打つ感に欠ける。(cinemascape)