男の痰壺

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バティモン5 望まれざる者

★★★★ 2024年6月5日(水) テアトル梅田1

市長の急死で閣内合議(と言ってもメンバー同志の立ち話)で小児科医の男が臨時市長に祭り上げられる。いやー俺なんてと言ってたが、それなりに街をこうしたいという理想は持っていて、だんだんその気になっていく。

この行政区は「レ・ミゼラブル」でも描かれたパリ郊外の移民が集積してるエリアで、彼は治安の改善を唱い未成年の夜間外出禁止とかを専制的に発布したりする。んなアホなーであって、移民出の若い女の子アビーが市長選に出ると言い出す。

 

ここから映画は選挙戦を描いていくのかと思っていたら、そうならず済し崩しになる。正直、ここまでは傑作の予感があった。奥行きのある多彩な人物群を捌くラジ・リの演出手腕は相当なものだと思わせる。

 

【以下ネタバレです】

移民が集積する老朽団地バティモン5の1室でで不認可食堂を営んでいた家から火災が発生し、これを好機ととらえた市長が建物倒壊危険を理由に住民を強制退去させる。

いやーいくらなんでも、アホで狭視野で原理主義専制野郎だとしても、何百人もの家族を受け入れ先もなしで寒空に放り出すか?そりゃウクライナパレスチナで行われてる非道理が世界の現在なんだからそれくらいのことあって不思議じゃないのさ、かもしれないけど。

 

いずれにしても。選挙どころじゃなくなって、映画は縮小してしまったように思えた。ではあるが、先述のとおり演出のパノラミックな俯瞰視座にはかなりときめく。

あと新星といっていいアビー役のアンタ・ティアウのノーブルな魅力。映画を牽引してると言っていいだろう。

 

俺なんてダメっすーなんて言ってる奴が一番ヤバいというシニカルな洞察と移民集積区の多層な現実を熟知したラジ・リのパノラミックな市長選記の様相が一変してしまう後半は牽強付会の感。だが細部のリアリティの積み重ねとノーブルなディアウの良さ。(cinemascape)

 

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