男の痰壺

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クラッシュ

★★★★ 2021年2月7日(水) シネマート心斎橋

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ここまで世界と孤絶して変態に耽溺されると参りましたとしか言えない。

クローネンバーグが「戦慄の絆」以後に舵を切った内向する純文学的変態シリーズの到達点なんだろう。全部見てるわけじゃないんですけど。

 

自動車事故フェチという、そんなもんどっから捻り出したんやなエクストリームにニッチな世界を偏執的にこれでもかの入れ込みで描いている。J・G・バラードの原作があるようだが、「裸のランチ」に比べて観念性を映画的に潤色・置換するのに成功してるように思います。原作読んでませんけど。

 

とは言っても、肝心の車が激突した瞬間のエクスタシーは、そこまで巧緻な表現ではない。寧ろクローネンバーグの本領が発揮されるのは、事故で負った怪我やその治療装具で、スペイダーの脚に各所で突き刺さった装具なんて全く意味不明に禍々しいのである。

フェチに耽溺する一派は、みんな顔やその他傷を負っており、それは彼らの共有する証であるかのよう。ロザンナ・アークェット扮する女は下半身マヒで、その装具にはマリファナ収納ポケットまである始末。

 

こういう死と臨界状態にならないとエクスタシーを感じなくなった者たちの帰結は、どっかでいき過ぎて本当に死んじゃった、となるわけで、映画もそういう展開へ向かう。

であるが、最後の帰結はアイロニーに満ちている。

 

エクストリームにニッチ分野の変態を磨き上げるかのような執拗さで描くが、肝心の事故描写は未だ甘い。しかし負った傷や医療装具の意味不明な禍々しさは余人の追随を許さない。極めた果てには踏み越えてあっちに行くしかない。その帰結は穏当で納まりが良い。(cnemascape)

 

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