男の痰壺

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センチュリアン

★★★★ 2021年9月19日(日) プラネットプラスワン

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師曰く「フライシャーの最高作はこれや!」

そう言われても内心フライシャーなんぼのもんやねんと思う俺はふーんくらいにしか思えないのであった。まあ、しかし今年見た「マンディンゴ」は確かに弩級の傑作であったんですけど、偶然との疑義も拭い難い。

 

で、本作ですが、最高作かどうかは知らないですけど見て良かった。とりあえずフライシャーの何が良いのか恥ずかしながら少しわかった気がした。

描写が即物的で簡潔。説明的な段取りとかは飛ばしちまうので舌足らずの誹りを受けかねないが、そんな奴の言うこと放っとけてな感じです。

本作でもステーシー・キーチが被弾する件やスコット・ウィルソンが誤射してしまう件など、サスペンサブルな演出は全くない。事は唐突に起こる。

 

1972年の作なので半世紀も前の映画なんだけど、ここで描かれる警官の日常は驚くくらいに今と変わらない。犯罪は概ねカラード周りで起こるし、であるから警官の対応も差別的になる。そして、あっけなく警官たちは殉職する。

ジョージ・C・スコット扮する老警官キルビンスキーが新人ステーシー・キーチに教授するキルビンスキー憲法なるオリジナル判断基準は限りなく人に優しい。もし、当時と現在で変わってしまったものがあるとすれば、優しさを謳う余裕の消失なのであろう。

 

最近「モンタナの目撃者」という映画を見た。白人主人公の妊娠中の女房が黒人女性なのが、ある種の同調圧力への配慮にせよ、たどり着いたの感慨を覚えたのだが、フライシャーは半世紀前にさらりとそれをやってのけてるんです。「漢」だと思います。

 

人情を旨とするスコットの警官哲学とそうは言っても死と背中合わせの現場がフライシャーの感情移入を排した即物的描写で淡々と進む前半。仕事を全うした人生も当て所は無いが今日も仕事をやり続ける。そうした日々の無常感が色濃く滲んで味わい深い。(cinemascape)

 

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