男の痰壺

映画の感想中心です

aftersun  アフターサン

★★★★★ 2023年5月30日(火) 大阪ステーションシティシネマ

親父は結局なんやったんや、でどうなったんやを詳らかにしない点で評価が異なるんかなと思うのだが、あえてそこに言及しないでここまでの作品に仕上げてみせたシャーロット・ウェルズの力量に打ちのめされた思いだ。極めてパーソナルな題材と思われるし、身内に対する想いをそこまで露悪的に晒す必要もない。

 

親父は31歳になってしもたと愕然としている。娘ソフィが11歳とのことだから20歳でできた子であり、言わば若気の過ちだったのだろう。妻とは早々に離婚して娘は妻が育てている。何故別れたのかは解らないが、この過敏に内省的て気の弱そうな優男に妻が三行半を突き付けたんだろう。俺はおそらく彼がゲイだったのだという結論を想定して見てたけど、前述の通り映画はそこに解は出しません。

 

これは、女性監督が自身の11歳の頃の記憶を徹頭徹尾に仮託したソフィという少女の視点のみで描いたものであり、その2週間のトルコ避暑地ツアーの記憶は燦然とした陽光下の悦びと合間に来る不協和音に縁取られる。親父の時折な沈鬱がなんかわかんないけどイヤーなノイズを差し挟んでくる。子どもの頃は親の悩みなんてわからないし自分の周りのことで必死ですからわかんなくて当然なのです。だけど大人になって思い出すと、当時のことが少しだけ見えてくる。

 

大きな展開があるわけでもない。庶民がツアーに行ってやるような平凡な出来事の連鎖だが、その行間を掬い上げる演出センスはチョー非凡だし、カメラも十全に応えている。そして何よりソフィを演じた新星フランキーちゃんの良さ。大物になりそな予感がします。

 

何ひとつ詳らかにされぬが11歳の見る世界は奥行きは浅く視界は狭い。父娘のバカンスツアーに差し込む陽光下の不協和音は歳を経た今鮮烈なイメージとして彼女を捕らえ続ける。何者にもなれず何者かを解放できない苦胆。その父の記憶を刻印しようとする試み。(cinemascape)

 

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