男の痰壺

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三人の妻への手紙

★★★★ 2020年10月24日(土) プラネットスタジオプラス1

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全篇にわたり、不在の女性“アディ・ロス”の名前が亡霊のように映画を支配する。人の口端にその名がのぼるたびに語感の良さもあって観客の脳裏に刻印される。「第三の男」のハリー・ライムや「ユージュアル・サスペクツ」のカイザー・ソゼみたいなもんです。

 

映画の構成はシンプルだ。

①プロローグ

②妻Aの夫との過去挿話

③妻Bの夫との過去挿話

④妻Cの夫との過去挿話

⑤エピローグ

と、なんだか、俺は大学の卒論とかを思い出してしまったが、言うなれば俺程度のやつが考えそうな芸のない構成とも言える。

演出や演技のコクを満喫しつつ、それでも鑑賞後に一抹の物足りなさを覚えたのは、そのへんなのかもしれない。

3人の妻の性格も、嫉妬、傲慢、冷淡といった女性のベーシック要因3要素に色分けされる。

 

マンキーウィッツの演出も「イヴの総て」に連なる絶頂期の手堅さだが、特に妻Cの実家の描写。母と妹と母の友人(妻Bの家政婦でもある)が出入りする賑わいと並行して窓外の至近を頻繁に列車が通過して家がガタガタ揺れる。

こういう設定のギミックが、あと幾つかあればと思わせた。

 

アカデミー監督賞と脚色賞受賞、キネ旬ベストテン3位と内外で評価された名作だが、案外役者は地味で、俺は夫の1人カーク・ダグラスと妻の1人リンダ・ダーネル、家政婦のセルマ・リッターしか知らなかった。

セルマ・リッターは「裏窓」の看護婦で記憶に残る人だが、本作では実に美味しいところを持っていき映画に余白を与えていたと思います。

 

全篇を覆う不在の女性アディ・ロスの影が緊張感を途切れさせないが、整然と並んだ3題噺構成が映画を収縮させる。ダーネルの挿話が最良。それは窓外を列車が通るたび揺れる実家といったギミックも寄与してる。こういう遊びがもう少しあればと思わせた。(cinemascape)

 

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