男の痰壺

映画の感想中心です

ジョーカー

★★★ 2019年10月8日(火) TOHOシネマズ梅田1

f:id:kenironkun:20191009110814j:plain

再三にわたり、ゴッサムシティの荒廃した現状が語られるのだが、ニュースの音声のみで、そこをもうちょっと丁寧に描かないと終盤の暴動とその中で格差への怨恨を晴らすジョーカーのアイコンとしての役回りがカタルシスへつながらない。

この映画の中に存在するのは四方八方の悪意と怨嗟のみで、そういう映画も嫌いじゃないが、そこまで徹底する気もなさそうなのだ。

 

のっけから、主人公は心を病んでいるように描かれる。

センシティブな設定を臆面もなく出してくれると思うし、コメディアンになることを夢見てるということで、なるほど一生懸命にネタ帳をつけたりしているが、てんで面白くもないのでコメディアンなんて夢のまた夢ってことなんだが、ちょっと疑問だ。

それでは、格差社会への憤懣がジョーカーの覚醒と同期していかない。

やはり、そこは、必死でがんばってもうチョイでいい線いったかもしれないのに、社会システムの陥穽に落ちて心を折られたみたいな要件がいるんじゃなかろうか。

 

7つも薬を服用しているという彼が、社会保障費の削減で薬を切られる。

と、爽快な気分だ!ってなるってことは、元よりの暴力衝動を薬によって押さえ込まれていたとも読めるので、それやったら色々描かれてきた被虐史のあれこれはなんやったんやとなる。総じて物語の論理的構築は放逐されていて場当たり。

 

演技が絶賛されているホアキンだが、もとよりサイコな怖さを備えている役者なので、いわば本線上のキャラクターと言える。意外性はなかった。

 

社会との関係の中で悪は形成されるとすれば彼は断ち切られたところで足掻いてるだけだし、根源悪だったとすれば描かれた被虐は何だとなる。抑圧が弾け沸騰するゴッサムでの少年ブルースと対峙といった大構えなクロニクル味が取ってつけた風になりつまらない。(cinemascape)

 

kenironkun.hatenablog.com

殺人の告白

★★★★ 2013年10月12日(土) 新世界国際劇場

f:id:kenironkun:20191008211358j:plain

あれっ?…なカーチェイスに目を瞑れば、近来稀に見る展開の妙だが、演出の大半は韓国ジャンル映画の追随でしかない。だが、それでも心を撃ち抜かれるのは、尽きせぬ愛惜の想いと激烈な怨嗟の持続が心揺さぶるから。白黒の犯人の造形も臨界ギリギリまで徹底。(cinemascape)

 

kenironkun.hatenablog.com

おんなの細道 濡れた海峡

★★★ 1981年6月4日(木) 毎日ホール

f:id:kenironkun:20191008205535j:plain

ただただ流される主人公に次から次へと降りかかる新展開に飽きる間もない脚本が最大の功績だろうが、石橋と草薙の助演男優2人が男の優しさを滲み出させて出色である。演出的にはエッジが効いてるわけではないがロマンポルノの好篇。(cinemascape)

 

kenironkun.hatenablog.com

★★★★★ 2019年10月5日(土) プラネットスタジオプラス1

f:id:kenironkun:20191008183440g:plain

その昔、俺が少年のころ、今は亡き淀川長治がラジオで映画を語る番組があって、たまに聞いていたのだが、そこで、この映画のことを随分と熱く語っていた記憶がある。

まあ、内容は忘れたが、タイトルだけは小さいときの記憶に残るこの映画を、それから半世紀を経て見ることになるとは夢にも思わなかった。

 

ルイス・マイルストンと言えば「西部戦線異状なし」の人だが、未見です。

凱旋門」と「オーシャンと11人の仲間」は見たが、正直たいして見どころがあるとも思えなかった。

本作も序盤は状況説明に流れている感じで、正直、寝不足の俺は若干ウトウトしてしまった。が、30分を経過したあたりから俄然、覚醒する。

あばずれ女を原理主義的カチコチの神父が更生させようとするが、しかし、って話で、バリエーションは違えども数多の作品が存在するなかの1本とも言えるのだが、マイルストンの演出が半端なく尖っている。

 

俺が覚醒したのは、神父からあの手この手で追放されそうになった主人公が海軍の軍曹に苦境を打ち明けるシーンで、ここが1シーン1カットで撮られているのだが、只管に続く会話劇をゆるやかに場所を移動しつつ、とにかくカットを割らない。

スゲーっと思った。

 

主人公の心理の大きな変転が2度あって、それが物語の肝なのだが、そこをちゃんと見せ切らない。って言えば舌足らずとか逃げてるとかになるんだが、不思議と俺は、見せずとも描けてしまうマイルストン、スゲーっと思ってしまった。

特に追い詰められた主人公が、窮状を訴えて神父にすがる。神父が突き放す。突き放すどころかかさにかかって追い詰める。いわば洗脳のパターンだが、とどめとばかりに祈りのことばを呪文のように唱えはじめたそのときカメラがゆっくりとティルトアップする。

まさに、幽体離脱の瞬間であり洗脳は達成されたのだ。

 

全編、雨が降っているのだが、最後に嘘のように晴れ渡る。

そこに、自殺した神父の死体が漁網にかかって海から引き上げられる。

 

主人公が追い込まれていく中盤の展開が階段上下差を生かした佳境で決着するのだが、その幽体離脱を思わせるカメラのティルトアップは描かずともの映画論法の昇華形。長回しを含めマイルストンの演出は冴えてる。止まない雨の閉塞もラストを際立たせた。(cinemascape)

 

kenironkun.hatenablog.com

今日子と修一の場合

★★★★ 2013年10月13日(日) MOVIXあまがさき2

f:id:kenironkun:20191005215607j:plain

希望を絶たれた人も自己否定との葛藤のなか尚生き続けるしかないわけで、さすれば渡世のしがらみから無縁でもいられない。そのことを直視することは、意味があると思う。3.11は多くの幸せを粉砕したが、救いがたい過去も消し去った。これも事実であろう。(cinemascape)

 

kenironkun.hatenablog.com

プライベート・ベンジャミン

★★★ 1981年6月21日(日) 池田中央第二映劇

f:id:kenironkun:20191005213325j:plain

ゴールディによるゴールディの為の映画であるとしても、パープー娘が1皮剥けてキュートでファニーな伝統的アメリカンステロタイプのアイドルとしての成熟を遂げる。 その試金石であったろうが、ピークでもあった。軍隊以外のシーンが余りに退屈。(cinemascape)

 

kenironkun.hatenablog.com

工作  黒金星と呼ばれた男

★★★★ 2019年10月5日(土) 新世界国際劇場

f:id:kenironkun:20191005155010j:plain

日韓関係の変容と、朝鮮半島の今を読み解くのに凄く勉強になる映画だと思う。

親北の政権が覇権を握ってる今、それでも北が韓国に冷たいのは、なるほどこういうことかとわかったような気がする。

 

スパイ映画といっても、事実に基づいたものだから、きわめて地味。

なのだが、腹の探りあいと化かしあいを描くにヒリヒリするような持続する緊張で一瞬の予断も許さない展開だ。

その為、演技者の表情や視線や挙動といった細かな演出と演技が最重要であって、そのあたり、もう完璧に近い密度を達成していると思う。

主演のファン・ジョンミンが巧いのはわかってはいたが、北の対外経済担当のイ・ソンミンという人は初見で、この人の醸す奥深い思いが映画の成功の要因だろう。

 

金正日との対面シーンが佳境なのだろうが、むしろ俺は寧辺のシークェンスに深く射られた。

現在、米朝交渉で核施設廃棄の捨て駒として北が差し出している地域であるが、90年代当時の悲惨な状況の厚みのある描写は、たとえばスピルバーグが「シンドラー」で描いた収容所やゲットー、「ブリッジ・オブ・スパイ」の東ベルリンの惨禍に比肩し得る。

産まれたばかりの赤ちゃんが10ドルで売られるという現状に対する北の高官たちの祖国への憂いと尽きせぬ思いが吐露される。希望的創作だろうが、そうであってほしいと思う。

 

敵の懐に入り込むことが信頼や尊厳をも裏切らざるを得ない遣る瀬無さが俄かに浮上し怒涛の顛末を迎える終盤。実は握っていたのポリティカルな虚実も吹き飛ぶ寧辺シークェンスの惨状は北高官の心情を吐露させる。担うイ・ソンミンの仮面の下の痛切な心根。(cinemascape)

 

kenironkun.hatenablog.com