男の痰壺

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工作  黒金星と呼ばれた男

★★★★ 2019年10月5日(土) 新世界国際劇場

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日韓関係の変容と、朝鮮半島の今を読み解くのに凄く勉強になる映画だと思う。

親北の政権が覇権を握ってる今、それでも北が韓国に冷たいのは、なるほどこういうことかとわかったような気がする。

 

スパイ映画といっても、事実に基づいたものだから、きわめて地味。

なのだが、腹の探りあいと化かしあいを描くにヒリヒリするような持続する緊張で一瞬の予断も許さない展開だ。

その為、演技者の表情や視線や挙動といった細かな演出と演技が最重要であって、そのあたり、もう完璧に近い密度を達成していると思う。

主演のファン・ジョンミンが巧いのはわかってはいたが、北の対外経済担当のイ・ソンミンという人は初見で、この人の醸す奥深い思いが映画の成功の要因だろう。

 

金正日との対面シーンが佳境なのだろうが、むしろ俺は寧辺のシークェンスに深く射られた。

現在、米朝交渉で核施設廃棄の捨て駒として北が差し出している地域であるが、90年代当時の悲惨な状況の厚みのある描写は、たとえばスピルバーグが「シンドラー」で描いた収容所やゲットー、「ブリッジ・オブ・スパイ」の東ベルリンの惨禍に比肩し得る。

産まれたばかりの赤ちゃんが10ドルで売られるという現状に対する北の高官たちの祖国への憂いと尽きせぬ思いが吐露される。希望的創作だろうが、そうであってほしいと思う。

 

敵の懐に入り込むことが信頼や尊厳をも裏切らざるを得ない遣る瀬無さが俄かに浮上し怒涛の顛末を迎える終盤。実は握っていたのポリティカルな虚実も吹き飛ぶ寧辺シークェンスの惨状は北高官の心情を吐露させる。担うイ・ソンミンの仮面の下の痛切な心根。(cinemascape)

 

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