男の痰壺

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国家が破産する日

★★★ 2019年12月8日(日) シネマート心斎橋

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1997年の韓国の通貨危機を描いたものということだが、当時、日本もバブル崩壊の長引く余波がより深刻化した時期で、俺のいた会社もつぶれて、正直、お隣さんの国でこういうことが起こっていたことさえ知らなかった。それどころじゃなかった。

現在の世の中に当てはめて、いろいろ考えさせる映画なのは事実でなのだが、それでも一種の作為を感じさせて、俺はクールじゃないし公平じゃないと感じてがっかりした。

 

3つの話が並行する。

① 通貨危機の打開に向けて自主再建の道を模索する韓国銀行のチームとIMFの介入已む無しとする財政局担当者との攻防。

② 金融危機を独自に察知し、大手金融会社を辞め投資家を集めて通貨オプションで巨額の利を得ようとする男。

③ 町工場を現金取引を旨として堅実に経営していたが、思わぬ大量発注に為替取引に応じて破綻する男。

 

①では、財政局担当者が大手財閥の御曹司とつるんで中小企業を見殺しにするさまが描かれるのだが、それでは、IMFの介入が正しかったかどうかを冷静に判断する根拠を放逐してるようなもんだ。実際、大手銀行を全~部ぶっつぶせとか労働市場の規制を撤廃して非正規雇用を導入しろとかのIMFの要求は、まんま我が日本で失われた20年で起こったことであり、影でアメリカが動いていたとの暗喩もからんで、それみたことかの論を日韓双方で巻き起こしそうだ。

でも、そうしなかったらどうなったのか、対症療法的なことで息をつないでいると、もっと悲惨な惨状が生まれた可能性ってのもあるんじゃないか。

描き方がワンサイドすぎるし、片方の論に最初っから片寄せしている。

 

③の経営者の挿話では、まじめに一生懸命汗水たらして働いていた人がこうなったのも、みーんな誤った政策判断のせいですよって匂いがする。でも、判断ミスが招いた結果なので、この物語に絡めるのは不適切。

 

②で男が投資家の前で「与信」が肥大化した韓国の現状をプレゼンする。不動産を担保に融資を受け土地を買い、それをまた担保に融資を受け土地を買い、それをまた…と2重3重の抵当にはいっているものに平気で銀行は決済して融資する。まさにバブル期の日本と同じで好循環がとまれば一気に崩壊する。誰が見たってわかりそうなもんだが、渦中で浮かれていると見えなくなる。

 

そういった観点を、もっと取り入れて欲しかった。

サブプライムの破綻を描いた米映画「マネー・ショート」でスティーヴ・カレルが実地調査で歩く荒廃した宅地のあと。

ああいったリアリズムは結局、最後まで見られなかった。

 

意欲的な題材選択とは思うのだが、自主再建派とIMF介入を推す勢力の攻防が明から様な善悪論で処理され介入無くばの推察のない我田引水論を尤もらしく説かれてもと思う。滅びに賭け巨利を得る投機家のリアリズムも具体性を欠き町工場の挿話は情緒的過ぎる。(cinemascape)

 

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