★★★★ 2021年7月19日(月) シネリーブル梅田2
チャン・ユーシャンは90年代後半に出遅れの台湾ニューウェイブ的な現れ方をした人で、ホウ・シャオシェンから10年、エドワード・ヤンから5年遅れて2本の作品を撮って消えた。
っていうと、我が日本にも似たような人いますよねってことなんですが、こちらは2017年に復帰して本作は復帰第3作らしい。
90年代の相前後する「恋する惑星」や「アメリ」と並べてポップなオシャレ系の作家として括られた作風に大きな変化はない。
映画の前半は彼氏いない歴云年の彼女が新たな恋に巡り会う様をギミック満載で描いていくが、何事も人より1秒先んじてしまうという仕掛けじたいそれほど面白くもない。
むしろ買いたいのはヤモリとかDJとかの小ネタだが、思い付きの域じゃなく反復されて本筋に食い込んでくるのも良い。
だが、この映画の美点はやはり後半にあると思います。
その切ないまでの叙情性において、よく引き合いに出されている「エターナル・サンシャイン」が、俺も見てて頭を過ったのだが、あちらが喪失された追憶を取り戻すための物語だったのに対し、こちらは実現されなかった希望をトレースする物語となっている。それは妄想を実行するとも言い換えられることから、単なるストーカー野郎のド変態行動じゃんと言う向きもあるらしいが、結果において彼女も嫌がってないんだから、これは純情男の行き過ぎの心情吐露程度で済ませてあげましょうよって話です。
海浜の水耕田の中を走るバス。まるで「千と千尋」終盤の夢幻に纏われた電車のようだ。そういう映画のロマンティシズムに身を委ねる。
そのために映画は俺の前にある。とも言えるんです。
DJやヤモリといった気の利いたギミックが反復される前半。そのポップでオシャレな孤独に飽きかけた頃に主体は置換される。逸脱された時間軸がもう一つの孤独を照射して叶わなかった思い出を現出させる。世界の臨界めいた風景が『千と千尋』みたく幽玄だ。(cinemascape)