男の痰壺

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その日、カレーライスができるまで

★★★★ 2021年9月5日(日) シネリーブル梅田2

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まあ題名のとおりカレーを作るわけだが、そこまでモノマニアックではない。食材や香辛料に凝ることもなく市販のルーを放り込むごく一般の作り方であろうと思われる。

 

冒頭、雨の中、主人公が食材を買って安アパートの人気のない部屋に帰ってくる。手には募金箱を抱えている。それは子どもが工作で作ったようなチャチいもの。

 

この映画は、そういった安普請に彩られており、オシャレなマンションでグルメチックな料理を作る類のものではないし、画面作りも凡庸といっていい。

 

しかし、主人公の身に起きたことが徐々に明らかになるにつれ、その何の取り柄もない様が側側と心に沁みてくる。

凡庸ゆえに抗し得なかった家族に降りかかった災厄。

俺にもっと甲斐性があれば。

それは、俺も含めた大多数の凡庸な世の父親・亭主たちが苦渋の吐息とともに深夜ひっそりと噛み締めた思いであろう。

 

主演のリリー・フランキー以外には出演者はいない。あるのは静寂に沈殿するようなラジオ番組のパーソナリティと、携帯にかかってきた兄貴の心配げな声と、隣の部屋の壁叩くオバサンの声のみ。

でも、最後の声のみは静寂から浮かび上がって彼の心を溶かすだろう。雨も上がって曙光が差しこみます。

佳品といっていい。

 

安アパートでどってことないカレーを作る。その安普請な取柄無さが、彼に起こったことが明らかになるにつれ側側と心に沁みてくる。夜の静寂を弥増させるラジオ・雨・隣室の音は世界を沈澱させるだけ。だけど、やがて電話は鳴るだろう。その時曙光はさすのだ。(cinemascape)

 

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