男の痰壺

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ウエスト・サイド・ストーリー

★★★★ 2022年2月13日(日) 梅田ブルク7シアター3

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オリジナルの冒頭、静謐の大俯瞰から急降下したカメラが捉える指パッチンという余りにインパクトのある導入は、さすがにそれをやっちゃあおしまいよでスピルバーグも準えるのが憚られたんだろう。総じて、ロバート・ワイズが試みたダンスのパッションを縦横なアングルの切り替えとキレキレの構図で倍加させる編集への拘りは放逐されマイルドな仕上がりです。

代わりに舞台を屋外に開放して、スケールが増した感がある。夜間に洗濯物が干してある安アパートの屋上で歌われた「アメリカ」は真昼間の路上での大群舞に変更された。それはそれで悪くないとは思いました。

 

ジェット団の歌う「クール」は身悶えする闘いへの衝動を抑える趣旨だったのが、トニーが諌めるようなニュアンスに置き換えられ、マリアが歌う恋の芽生えへの歓喜「アイ・フィール・プリティ」は悲劇との対称を狙って挿入箇所が後段に置き換えられた。それらは、完全な失敗とまでは言わないが前より良くなったともお世辞にも言えない。

 

ジェット団の尻尾でチョロチョロしていたエニイボディの役割を増幅することで多様化の時代に適応した目配せはまあ良しだが、開発によって変容する都市と行き場を失う弱者という視点はチョイやってみましたレベル。まあ、いずれにせよこの程度の現在社会へのアダプトが限界なんだろうと思わせます。

 

企画を聞いた時、何やらかしてくれんねん要らんことすんじゃねえよアホンダラと思った作品ですが、前作を上まわらず過度にへっぽこでもない据わりのいい場所に落ち着いた出来だと思います。

 

負け戦をわかってて挑んだ気概は見受けられないが、それでも偉業に泥塗らない程度には仕上げるスピルバーグの活動屋の矜持。魂はビタいち揺さぶられないが愉しめた。増幅された多様性と付加された都市変容などのエッセンスはやってみただけレベルだが。(cinemascape)

 

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